みかんには甘酸っぱい幼い日の思い出があります。同級生が7人、複式学級の村の分教場の学芸会で、わたしは「みかんの花咲く丘」を演奏しました。ピアノは講堂の床に。7歳の祝いのきものの袖を気にしながらも、なんとか弾き終えましたが、舞台へ戻ろうとして頭がまっ白に。どこから降りたのかわからなくなり舞台の端に手をかけました。わたしはどうやって舞台へ登り、父兄に礼をしたのでしょう。空白なのは自分で消してしまったから? みかんの木をみたこともない雪国の小学2年生でした。
みかんの色が一際映えて
愛媛県西代市宇和町の直売所「新鮮市げんき屋」は駐車場を広くとったために道路から少し奥へ入った平屋の建物。入口には深緑のプラスチックケースにみかんがぎっしり入って色鮮やかに人目をひく。その横には自動販売機と缶、ビンのリサイクルボックス。ともに紅色系の赤。これが緑のケースを引き立て、すっきりと洒落たエントランスに(写真1)。
店内に入れば一転、ブルーのプラスチックケースが床から3段ほど積み重ねられ、野菜や加工品が並んでいます。
スペースの明度による色分けが効果的です。明るい場所には引き締まった色、屋内で照明の足りない場に明るい色という色のマジック。色といえば手作りの値札の赤と黒のマジックの使い分け、図案化された数字の親近感、思わず商品に手が伸びてしまいました(写真2)。
この店では「夢果実」という名でみかんのインターネット販売もしています。生産者にとっては心強い納入先ですね。
みかんは薬用資源
同県東宇和郡宇和町の東宇和物産会館「どんぶり館」の特産品売場で見付けたみかん茶は、西予市三瓶町の「おもしろ倶楽部あとりえkei」の新迫かつみさんが、未熟期の小さなみかんを乾燥させたもの(写真3、4)。未熟期のみかんの外・中果皮に、アレルギー症状を緩和する抑制率が高いことを、近畿大学薬学部の久保道徳教授が実証したという新聞の記事がこの商品のそばに置いてありました。最初はこの乾燥みかんがあまりに可愛いので、思わず手を伸ばし、次いでその効能の記事を読んで納得、購入しました。客観的な情報が添えられていると、商品への信頼も増し、友人知人へも宣伝してしまいます。また嬉しいことに割れや切れ端などはお風呂用に使ってもらえれば…と、サービスとして置かれてありました。新迫さんのお人柄がしのばれます。
みかん茶(ゆのみ) |
心配りの箱詰め
『風の中のアリア』 |
本紙'06年1月20日号で紹介文を書かせていただいた『戦後農村女性史―風のなかのアリア』(ドメス出版、写真5)はわたしのカバーデザインの作品でもあります。激動の時代を生きた女性たちの手記や詩、短歌等の作品に紡がれた声と、農村の戦後史が著者の鋭くも暖かい眼差しによって織り上げられた大作です。
著者の大金義昭さんの紹介で、広島県果樹研究同志会会長の長畠耕一さんにお会いしました。気骨あふれる面立ちは、大地の金剛力士、仁王のようです。さすが会長、長畠農園の柑橘類の種類の多いこと…。交配しての新品種は、それぞれに特長を出してまことに美味しい。瀬戸内海しまなみ海道のまん中、高根島の段々畑での栽培。
丹精されたものが箱詰めで届く。開けて感動するのは品種ごとに新聞紙で仕切られ、カードが入っていること(写真6)、それぞれの写真に品種名と特性。また料理のレシピも。例えばタコ入りレモンライス。保管の方法、名前の由来から歴史まで。お連れあいの由佳さんの心遣い。お見事!!