愛媛県西代市宇和町の東宇和物産会館「どんぶり館」(写真1)の広い建物の右半分「ふれあい広場」(写真2)に足を踏み入れて驚くのは、野菜がひときわ元気で生き生きしていることです。
わたしの本業であるデザイナーの目が、決して明るくはない売場に、その原因を見つけました。
陳列棚の上にぎっしりと置かれたプラスチックケース。なんと生鮮野菜は黄色、乾燥させたものは白に分類されているのです。それも商品台の上に、きれいに並べられ、ぎっしりと詰めてありました。野菜の緑や赤、乾いたものの茶色や薄茶色をそれぞれのケースの色が引き立てているのです。
立っている野菜…
なんとここでは白菜もカブも、葉物等は立ててケースに入れてあります(写真3)。冷蔵庫の野菜室に入れる時は横にしないで縦に。畑にある状態を保つ方が長持ちすると聞いたことがありますが…。わたしが見て来た直売所の中では初めての並べ方です。さすがにネギやニンジンは横になっていましたが、売場はさながら畑です(写真4)。野菜をあずかる売場の方々の生産者への暖かな想いが伝わってきます。
ブルーのコンテナとは大きな違いが出ているように思われますがいかがでしょう。黒のコンテナが売られていました(写真5)。照明の明るい場所や屋外なら、黒はさらに商品の色を引き立てることでしょう。
乾物名人のひとこと
「だしがよくでます」(写真6)この小さな張り紙にわたしはすぐ反応し、手を伸ばし購入しました。帰京してすぐ試したのは、豚肉、こんにゃく、ニンジンとともにうす醤油で煮ること。看板に偽り無し。食の進むこと…。
たった一言の、そして一手間の張り紙のおかげでわたしは美味に遭遇できました。このひらたけの加工者は浦田安恵さん。旬のものを乾かしての日持ちは無論ですが、深みのある味を手渡しして下さる。彼女の乾燥ゆずの皮は紅茶に浮かべ、香りを楽しんだ後は、蜂蜜をからめてパクリ。みかんの皮の陳皮(ちんぴ)よろしく鎮咳、発汗、健胃の効を期待して…。
それにしても女性の智慧(ちえ)の素晴らしいこと。山形県庄内の遊佐サングリーン自給実践グループの板倉裕子さんの干しナスも、都会で暮らす者には感無量の味でした。
自然の恵みを略奪するのではない活かし方、もったいないの智恵は、さらなる滋味を創り出し、食卓に深みが加えられました。
見つけました お手玉
「どんぶり館」のコーナーでモダンな柄行きのお手玉発見!(写真7)残り布を生かして値段は1個130円。母、娘、孫、三代で腕を競い合う姿を想像しただけで、胸が暖かくなります。地域でお手玉大会など企画されてはいかがでしょう。人生の大先輩の方々の技と歌を、幼い子等と共に、うけつぎたいものです。
『いまを耕す』
日本文化厚生農業協同組合連合会発行の月刊誌『文化連情報』には何度か寄稿させていただきました。
編集長だった高杉進さんが定年を機に、19年に亘る編集後記を『いまを耕す』(写真8)と題して自費出版されました。雑誌が届けば、まず「後記」から…が習慣となるほどの喚起力のある文章でした。
「大きいだけがとりえの百姓家育ち」は山を愛する男でもあり、山男はまた文学を身近なものとし、後記には大伴家持から、山口誓子、高浜虚子、山之口獏、茨木のり子…の歌や詩が引用され、骨太で繊細な自作の短歌も添えられていた。困難な時代の農を憂い、平和憲法のなし崩しを憂う。
「凧よ凧糸切って切って飛び上がれ 行方知らずの風つかまえよ」と誘うこの本を多くの方々の元へ回覧する道はないものか、惜しまれる非売品です。