わたくしが紹介される時の肩書きは、装幀家です。本のカバーや表紙等の材質を決め、デザインをする仕事です。原稿を読むことから始め、「ことば」を掴んでいきます。そして資料の海の中へ。もぐっているうちに手がかりが見えてきます。
'85年から参加した日本テレビ『笑点暦』のデザインは、只今、26作目の制作に入っております。当初は表紙だけでしたが、今は全頁の企画内容とデザインに関わります。
来年の7、8、9月の夏の頁は、わたくしの責任企画です。暦から、涼風や、葉を打つ雨の音を感じていただければと、「夏の雨づくし」、雨の異名を紹介します。
いのちを育む 恵みの雨と…。
いろいろな本をひらいてみますと、四季折々に天から降ってくる雨に、地域、地域で独特の名をつけています。今の季節ですと甘雨(かんう)、草木にやさしく降りそそぐ、春の雨のこと。始まった農作業の段取りにまるであわせるかのようにゆったりとした雨の名です。これが新潟県東蒲原郡では、蛙目隠(かえるめかくし)というそうです。
甘雨と同じ意味に膏雨(こうう)。「膏」はうるおうという意味だそうで農作物を育てる雨。よいおしめりか。農家ではこのころ水口(みなくち)を落としていた用水路や堰の修復と、苗代(なわしろ)の準備が始まる由。昔、堰は松杭と竹、うらじろなどを使って寄合総出で組まれたとか。10年程で堰もくずれ、底に埋積した泥と一緒に流されるそうですが、現代と異なり、再び組みなおされる循環型。
社翁(しゃおう)の雨。社翁は土地の神さまのことだそうです。春の祭り日に神さまが降らせるという雨で穀物の成育を祈る由。
万物生(ばんぶつしょう)、生きとし生けるものすべてに新たな生命力を与えてくれる春の雨。
沃霖(よくりん)、なんと嬉しい雨でしょう。農家にとっては恵みの雨。田畑の土を肥やす春の長雨のことだそうです。
養花雨(ようかう)、花曇りの頃、花々に養分を与えるように降る雨。同意語に「育花雨」があります。
麦食(もぎく)らい。高知県長岡郡で使われる表現。麦の穂の出る4、5月頃に降って、成育をはばむ雨のことをいうそうです。農家の想いのこもった名付けです。
雨乞(あまご)いの歌
歌や踊りを神々に献納する…。雨乞小町の異名を持つ小野小町に「ちはやぶる神もみまさば立ちさはぎ天の戸川の樋口(ひぐち)あけたまへ」。
芭蕉の門人の其角には「夕立や田を見めぐりの神ならば」。江戸向島(むこうじま)三囲(みめぐり)神社で農民に請われての一句。(田を)見めぐりの神という御名なれば験(しるし)を見せよと。たちどころに雨が降ったので江戸中の大評判になったという。
皆さまの地の雨の異名を調べて、直売所に掲示されてはいかが。
また、空模様の読み方等、言い伝えは農家以外の方々にも役立ち、興味深いのではないかと思います。