「農産物価格が高いのは、国内の生産コストが高いからである。生産資材費を抑えれば、その分コストが安くなり、国際競争力がつく」というのが生産資材低減運動の主旨である。政府が背後にいて、JAグループを全面に押し出しメーカーと相対している。需要者と供給者という関係でもある。
生産資材と一口に言っても、肥料、農薬、農業機械、農業ビニール製品、袋資材、灯油、飼料それに土地代、人件費、流通経費も含まれるかもしれない。それぞれに業界があり、伝統的な商習慣、引き継がれた技術もある。農業者から見て、必要な生産資材の価格が高ければ、川上のメーカー・商社・問屋は儲け過ぎと反感を持つことはもっともなこと。しかし、ただでできる資材はない。見方を代えれば、彼らは農業の理解者、関連企業でもある。
日本が高度経済成長に入る入口の段階では、象徴的な現象として肥料担当部長が社長になる大企業が数多く存在した。商社では三菱商事、三井物産、丸紅など、メーカーでは三菱化学、信越化学、住友化学など。農業からまたは肥料から利益を得て、社内で力をつけ出世したともいえるが、財界では彼らが広い意味では農業の味方で日本の農業問題を心配していた。この時代、企業が農民から得た利益を経済発展に注ぎ込んだと総括することもできようが、現在よりも日本農業も元気があった。
生産資材費の主要部分、稲作を例に取れば、肥料代は6%弱である。ほぼ30年間その比率は変わっていない。毎年価格交渉は6月頃メーカーと全農が行う。肥料安定法が廃止されてから個々のメーカーと全農の交渉で決着をみるが、圧倒的に需要者つまり全農の力が強くなっている。メーカーは肥料ではもはや大幅利益は望めないし、販売数量も毎年10%近く減少が続いている。価格も、販売地域も自由に決められない。海外に依存する原料代が75%も占める肥料価格を安く抑えるには、円高か海上運賃を左右する石油安の状態に戻らないと実現しない。今は反対に円安かつ石油高の状況。メーカーは合理化努力も限界に達し、専業メーカーは疲弊している。肥料製造を止める工場が続出しそうである。
この時期、政府高官主導で、農協改革に名を借りて更に生産資材費20%削減すべきとの口先介入の指導があるとも噂される。農水省は、農業関連企業には冷淡である。
ある商社で農業部門を担当していた人が、塩を扱う子会社へ出向した。塩は財務省の影響力が強い。政府の企業への関心度は農水省とは雲泥の差があり、実に手厚い企業保護があると述懐している。
川下では生産資材は品目毎に、熾烈な競争をしている。メーカー同士、地域ではJAと農業資材チェーン店、個人商店がお客の農家を奪い合っている。市場原理のまま動いている。政府の干渉すべき分野ではなさそうである。アグリビジネスを支援し、農業の味方を増やし、農家と業界に活力を与える農業政策を政府は考え出すべきではないだろうか。