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【金右衛門】
都市農業にひとこと
都会のオアシス支えるシステムを

 東京23区内で明るく農業を続けている農家がある。都心から電車で20分西に向かう...

 東京23区内で明るく農業を続けている農家がある。都心から電車で20分西に向かう。杉並区久我山駅を降りると馬橋リトルファームである。
 10月の晴れた日の午後にNPO援農グループに誘われて見学し、当主の説明を聞いた。畑の面積は約3000m2(約30アール)。三方はマンションや住宅が密集している。畑の真中で仁王立ちして、深呼吸、秋の空を見上げると、あー東京にも空がある。
 73歳の当主は都会の農家の長男だった、サラリーマン在職中から農作業を手伝ってはいたが、定年退職後本格的に奥さんと共に農業での成功をめざす。都市農業のあり方とはそこに「畑が在る」だけでなく、地域に貢献し、周辺住民に親しまれること、農産物の供給の他に農家の心構えと活動が消費者に理解されることだ。生産緑地の指定で税制の優遇を得ている。百姓はアイディア勝負、住民に嫌われたら困る。都市農業者としての理念は、食の生産を担うという誇りを持って百姓になりきることだと心に決める。
 都市農業を実践していくには、それなりのノウハウがある。その1、畑の周囲の生垣は低木を植える。通行人が歩きながら畑の様子を見ることができるから。その2、露地栽培にしてハウスは設けない。景観を保ち、住民が故郷を思い浮かぶようにしたいから。その3、少量・多品種の生産。野菜・切花を主体とする。その4、農薬使用は、最小限にし、有機栽培の明示、木酢と点着剤としての石鹸水の利用はする。農薬は劇毒物かのように誤解されているから。庭木の剪定くずが近所から運ばれる。米ぬかを混ぜて切り返し、堆肥にする。その5、畑の隅にはあずま屋を設け、お客の休憩所にする。その6、直売方式とし、農産物の生産・販売は4つの「あ」を目標にする。あたらしい(新鮮)、あんぜん(安全)、あじ(美味)、あんか(安価)。直売日は毎週土曜日午後3時、近所から見えるように早朝に旗を掲揚して知らせる。
 11月から3月の冬期は小松菜を植えて土ぼこり防止。うね巾1m長さ5mに小松菜の種をまき、芽が出揃ったところで「うね売り」をする。210世帯が先着順で買える。買った人は何時でも自由に畑に入って収穫できる。援農ボランティア4人が来る。それに志願兵と呼ぶ土いじりの好きな住民が、草むしりや野菜の世話をしたいとやって来る。皆が動いて、働いて楽しそうだ。地域住民の常連客と秋には月見会、春には菜の花畑で餅つきや野点の茶会もする。
 馬橋リトルフアームは都市のオアシスだ。狭い部屋に閉じ込められている都市住民は、広い土地を持つ農家を羨ましく思う。生産緑地の認定を受けながら、農地を有効利用していない都市農家は多い。そのような土地には遺産相続時に膨大な課税がくる。税金を払うため農地を売却する、その時点で都市からまた農地が消える。農地保全・都市空間確保のため高齢者農家等へは、効果的な援農システムの構築はできないものだろうか。

(2004.10.21)