コラム

今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

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【今村奈良臣】
ASTの活動に期待する

◆JA本来の仕事は何か                                                                                          ◆先行事例に学ぶ内発的発展力
◆多様性を活かすネットワークづくりを
◆内発性と創意工夫を

 JA新ふくしまでは、今春から「AST」を設置して目を見張るような活動を始めつつ...

 JA新ふくしまでは、今春から「AST」を設置して目を見張るような活動を始めつつある。ASTとは何か。
 A=アグリカルチャー(農業:Agriculture)
 S=サポート(支援:Support)
 T=トータル・チーム(全てを掌るチーム:Total Team)
 つまり、AST(アスト)は、JA新ふくしま管内の先進的経営体の農業経営者(認定農業者、農業生産法人、集落営農等)や中核的担い手農家を対象にJAとの新たなリレーションシップを再構築する農業経営支援チームの愛称である。このASTは、「明日人」(あすと)とも読めるらしい。「明日(未来)の農業とJAを担う人達」という意味と、農業(A)、振興(S)、対策室(T)という意味をも併せて持たせているようである。つまり「AST」という簡潔な一語で、JAと組合員の新たな絆を作り上げ、新たな営農指導事業を創り出し、新たな農産物販売路線を創造しようという考え方にもとづいている。

◆JA本来の仕事は何か

 「JAの事業の中で、共済、信用事業というのは全部真似事です。保険会社や銀行の真似です。モノ真似は絶対本物を超えられないんです。我々の本物は何かといったら生産、そして販売と営農指導です。現物を持っているということは、強いんです。ですから販売をきちんとする。価値を認めてもらって販売をする。そして共済、信用事業なんです。いままでは共済、信用事業が金になるものだから、全部そちらにシフトして営農指導などをおろそかにしていた。組合員教育、職員教育、消費者教育をおろそかにしていたんです」。
 ここに引用した文章は新ふくしま農業協同組合経営管理委員会会長の吾妻雄二氏が『財界ふくしま』(2008年5月号)のインタビューに答えた「提言」の中で言われていることである。この発言や発想は、私と全く同じである。私もかつて本紙(2006年5月10日付「営農指導と販売事業(1)」で次のように述べたことがある。
 「JAの生命線は、営農指導、営農企画、販売事業にあると私は考えている。金融、共済は、銀行や郵便局、そして保険会社もある。しかし、農産物の生産、供給、販売はJAがなければ成り立たないと考えている。もちろん、このように言っても、JAの信用事業や共済事業の重要性を決して否定しているわけではない。営農指導や販売事業の重要性を浮き彫りにしたいがために、強調しているのである」。会長と全く同じ意見である。そして吾妻雄二会長の強力な推進力のもとにASTは発足することになったのである。

◆先行事例に学ぶ内発的発展力

 ASTは、いうまでもなくJA新ふくしまの独自の発想にもとづく企画と新路線の提起である。しかし、この企画を策定するにあたってはもちろん先行事例を徹底的に調査し、その分析、考案のうえで、JA新ふくしま管内の実態に即した活動の方向を実践しようとしている。
 そこで先行事例として取り上げたのが、JAそお鹿児島のTAFであった。
 TAFについては、かつて私は本紙で紹介したことがあった(本紙2006年1月10日付「辺境から革命は起こる」)。そこでは次のように書いている。
 「JAそお鹿児島では、全国のJAにさきがけて『TAF』(タフ)という活動を平成10年から推進してきている。T=トータル、A=アドバイザー、F=ふれあい、という意味である。将来のJA管内の農業を担うであろう農家経営体を選定し、徹底的な訪問活動を通して「悩み」「要望」「苦情」を聞き取り、その解決策を立案し実践しようという活動である」(以下略)。
 私のこの一文を読み、JAそお鹿児島の現地をJA新ふくしまの幹部と担当者が訪ね、その活動の実態をつぶさに調査、分析して、ASTの構想と活動の方向を策定していった。JA新ふくしまのもつ自主的創造性と内発的発展力を私は高く評価したい。

◆多様性を活かすネットワークづくりを

 JA新ふくしまは、いうまでもなく合併を重ねた大規模農協である。昭和の市町村合併前の32の旧町村にその版域は及び、現在では正組合員数9641人、准組合員9796人、職員414人、役員60人(経営管理委員50人、理事・監事10人)という大組織である。さらに、かつての養蚕地帯から多様な果樹主産地に展開してきたものの水田地帯や畑作地帯、中山間地域も含み多様である。果樹も、もも、りんご、なし、ぶどう、おうとうなどが主力かつ多彩であり、直売所も7店舗で活発な活動を行っている。
 しかし、最大の課題はかつての「人多地少」の時代から「人少地多」の時代へと激変してきたことであり、さらに近未来(5〜10年)を展望するならば、次代を担う一騎当千の人材をいかに確保し、増やすかが最大の課題になっている。もちろん、この課題は全国共通の課題であるが、果樹特産地帯では特に厳しい問題に直面しているように見ることができる。門外不出の技術や技能、あるいは家を単位とした特定の贈答品や特定直売方式など果樹地帯特有の「イエ主義」がこれまではJA新ふくしま管内に限らず支配してきたが、いまやこういう旧弊は崩れつつあるし、次代を背負う若者たちの選択肢とは違和感が持たれ敬遠されつつあるように見える。
 こういう状況の中でこそ、ASTの活躍が期待されているのではなかろうか。私はかねてより、「多様性の中にこそ強靱な活力は育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない。多様性を真に活かすのがネットワークである」と説いてきた。ASTが、新しい時代にふさわしい、また次代を背負う青年たちが望んでいる新しい姿のネットワークを創造するような活動を進めてほしいと念願してやまない。

◆内発性と創意工夫を

 ところで4月18日付日本農業新聞の朝刊を見ると、『愛称はTAC』という見出しでJA全農は、全国のJAに対して「出向く営農」を定着させるために、全国統一愛称「TAC」を使用するよう指導する方針であると報じている。
 このような全国画一的な路線の推進には、私は疑問を持つ。自発性、内発性こそが地域農業の改革、創造に役立つのであって、画一的なトップ・ダウン路線は、弱体性しか生み出さないのではなかろうか。もちろん、「TAC」を否定するわけではないが疑問を持つ。先に述べたように私は「多様性の中にこそ強靱な活力は育まれる」ということを信念として持っている。全国画一的な横並び方式は弱体性しかもたらさないのではないかと考えるが、どうであろうか。今、求められている課題は多様性を真に生かすボトム・アップ方式であり、それを真に生かす地域農業再生のためのネットワークであると信じている。

イラスト:種田英幸
イラスト:種田英幸

(2008.04.28)