コラム

今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

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【今村奈良臣】
農業の六次産業化で地域を興す(つづき)

 前回に続き山形県立農業大学校での講演の前に行った卒業生の調査について、前回紹介できなかった2人の方にて簡潔に紹介したい。併せて講演の一端も紹介しておこう。

◆観光果樹園で6次産業化を推進

 森谷恵一君は農業大学校果樹コースを平成12年度に卒業し、そのまま父の跡を継ぎ、フルーツ・ロードとも呼ばれる国道48号線沿いに「ふる里観光果樹直売所」を運営するとともに、著名な温泉地でもある天童温泉のホテル等とも連携して果実のもぎとりや直販活動を多彩に行っている。栽培している品目は、さくらんぼ、桃、すもも、ぶどう、洋なし、りんごであるが、各品目とも多彩な品種を導入(例えば桃では、あかつき、川中島、黄金桃、いけだ、なつおとめ、ふくえくぼ、美晴白桃の7種)して、観光農園として切れ目を作らないよう創意工夫をこらしている。父は県会議員、妻は看護師という事情のもとで、母も入れた5人のすぐれたスタッフで、直売、地域発送などの直販、もぎとりなどを巧みに組み合わせて経営していた。2年間のアメリカ留学・研修が生きているように思われた。


◆山形有数のバラ園を経営

 小島憲氏(昭和56年度卒)、息子の拓朗君(平成20年度卒)と親子2代にわたる県立農業大学校卒業生である。
 憲氏は、父がやっていた水稲中心の経営から父の反対を押し切って新庄盆地ではパイオニアとも言うべきバラ園経営に大転換した。現在、バラ園は軽量鉄骨ハウス4棟、約2000坪のロックウール栽培施設で、スタンダード36品種、スプレー18品種のバラを栽培する切り花栽培経営を行っている。
 長男の拓朗君は、平成21年3月に農業大学校を卒業したが、平成21年2月に開催された「全国農業大学校等プロジェクト発表大会」において、「我が家のバラ園経営改善計画」という発表が、全国最優秀賞(農林水産大臣賞)を受賞している。その内容を詳しく紹介する余裕は無いが、収益増加と経費削減をいかにすすめるかという、理論的にも実践的にもすぐれた内容の発表であったようだ。特に新技術開発を中心にした内容であったが、それを通して、販売計画の推進、所得の増大へといかにつなげていくかという点が注目された。恐らく、新庄盆地に新しい風を呼び起す人材に育っていくことであろう。

◆山形県立農業大学校生への私の10の提言

 さて、前回を含めて、4組の卒業生の活躍の実情を簡潔に紹介してきたが、本論である私の講演の一端を紹介しておこう。まず、講演の序論として「山形県立農業大学校生への私の10の提言」を行った。その要点を紹介してみよう。
 (1)"Challenge! at your own risk"(全力を挙げて挑戦せよ、そして自己責任の原則を全うせよ)
 (2)"Boys, be aggressive!"(自らの新路線を切り拓き積極果敢に実践せよ)という2つの提言である。
 この2つの言葉とも、私が25年前から推進してきた全国各地の農民塾、農業経営塾、人材づくり塾などの塾生に説いてきた言葉である。塾生たちの誰もが、この二つが胸の中に残っているというので講演の最初に提示した。
 前者は、アメリカ中西部の農民が子供に農場を継承する時に発した言葉で、26年前にアメリカで調査した時、耳にして胸を打たれた言葉である。
 後者は、私の若い時指導してくれた故東畑四郎氏が言われた言葉で今も私の胸の中に残っている。いうまでもなく、あのクラーク先生が明治の初め、札幌農学校を辞して帰国するに当り発した"Boys, be ambitious"をもじったものである。
 (3)「農業ほど男女差のない産業はない」。これは、青森のJA田子町(現・JA八戸)の常務理事佐野房さんが言われた言葉を借りたものであるが、大学校生もこれを胸に実践してほしいと強調した。
 (4)「多様性の中に真に強靭な活力は育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない。多様性を真に生かすのがネットワークである」。これは私のモットーとするところであり、解説の必要はあるまい。この考え方で、どうか卒業後も実践に励んでもらいたいと強調した。
 (5)「ピンピンコロリ路線の推進を」
 私は農村の高齢者を決して高齢者と呼ばず「高齢技能者」と呼んでいる。頭から足の先までの五体に智恵と技能が埋め込まれているからだ。この高齢技能者におおいに農業生産に励んでもらい、ある日コロリと大往生を祝福の中で遂げてもらおう。そのためには諸君のような若者、そして活発な農村女性たちの協力とリーダーシップが是非とも必要だ。
 (6)「計画責任、実行責任、結果責任」。昔から「絵に描いた餅は食えない」と言われてきた。計画ばかりでは駄目で、いかに実行するか、いかに結果を示し、次の計画へとつなげていくか。大学校での勉強を通じてしっかりと学んでほしい。
 (7)「皆さん、全員名刺を持とう」。名刺は情報発信の原点である。これまで日本の農家の皆さんは名刺など持たなかった。持つ必要を感じなかったからだろう。しかし、いまは違う。皆さんは率先して学生でも名刺を持とう。そして裏には自らの目指す道や専門分野についてイラスト入りでもよい、社会にアッピールするような名刺を作ろう。そうすれば世の中が広く見えるようになる。
 (8)「農業の6次産業化ネットワークを推進しよう」。15年前、私は農業の6次産業化の推進を農村の皆さんに訴えた。当初は1+2+3=6次産業であったが、2年後に、1×2×3=6次産業に改めた。農業が零、つまり無くなれば、0×2×3=0になるぞ、という警告であった。
 この私の提案にまず答えてくれたのが農村の女性の皆さんで、農村の女性起業はいまや公式統計で1万に迫っている。また、農産物直売所は急激に伸び、いまや1兆円産業になろうとしている。政府も農商工連携促進法を昨年公布し、「農・商・工連携」を進めようとしているが、農業側の出足は鈍く「商・工・農」連携になる恐れがある。この大学校では、農産加工経営学科を創設したが、これを機に6次産業化に全力を挙げてほしい。
 (9)「平等原則から公平原則へ」。真に汗を流して努力している者へ報いるシステムを構築しよう。
 (10)「次代を背負う人材をいかに増やすか」。農業大学校がその先頭に立とう。卒業したすぐれた先輩は多い。そういう卒業生をはじめ、各地の人材、他産業の方々とネットワークを組み、新しい山形県農業の姿とあるべき方向を諸君の手で創り上げてほしい。伝統を現代、そして将来に生かしてほしい。
 以上、講演の序論部分のみの紹介に終わったが、いずれ別の機会に本論も展開してみたい。
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(イラスト・種田英幸)


(2009.07.06)