コラム

今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

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【今村奈良臣】
米沢を動かす「老 中 青」の3結合力

 山形県米沢市で農民塾が開講された。正式の名称は「農業担い手経営塾」で市の農林課が事務局を担うことになっている。去る7月4日に開塾式と合せて、今年度第一回目の講義とパネルディスカッション、さらに夕刻より盛大に開塾を祝うビアー・パーティが開催された。

 山形県米沢市で農民塾が開講された。正式の名称は「農業担い手経営塾」で市の農林課が事務局を担うことになっている。去る7月4日に開塾式と合せて、今年度第一回目の講義とパネルディスカッション、さらに夕刻より盛大に開塾を祝うビアー・パーティが開催された。この農民塾を興した仕掛け人は全国農協中央会の松岡公明さんである。かねてより米沢市やJA山形おきたまと松岡さんは交流が深く、地域農業興し、人材育成には農民塾がなによりも必要だと説き、開塾にこぎつけたと伺っている。松岡さんとはJA?IT 研究会などを通じて旧知の間柄であったので開塾の講義に私は馳せ参じた次第である。

◆多彩な塾生 77人の精鋭

 開塾の趣意書を見ると、「大きな変革期にある農業分野において、固定概念にとらわれず、新たな発想や創意工夫により農業の未来を切り開いていく農業者を支援していくことを目的に……米沢市農業担い手経営塾を開催」するとうたっているが、まず、私は塾生名簿を見て驚嘆した。塾生が実に77名の多数であること、その中に女性が10人いること、さらに最高齢は71才、最年少は23才と実に幅広い階層が入塾していることであった。
 さらに塾生名簿を仔細にみると、JA山形おきたま青年部や米沢市農林課の職員、さらには私の日本女子大学大学院時代の教え子で県の農業技術普及課(県置賜総合支所)で普及活動に精を出している是川邦子さんまで、実に幅広い、一言で表現すると「農・産・官・学・研」という巾広い分野の方々が塾生となってネットワークを組み智恵を出し合って地域農業興しを推進しようという発想である。
 開塾式に当り、私が、特別講演「農業の復権と地域社会の活性化」というテーマで、松岡公明さんが「農政課題と地域農業マネジメント」について講演を行い、そのあとパネルディスカッションを行った。
 この農民塾は、このあと今年度の計画として、吉田俊幸高崎経済大学学長、斉藤修千葉大学教授を招いて開塾するだけではなく、群馬県のJA甘楽富岡での一泊二日の現地研修と合せて黒澤賢治さんの特別講義など、大変すぐれたスケジュールが計画されている。

◆地域興しの人材群像?3事例

 そこで、講演の前後の時間に、塾生を代表する三人の方々の現場を訪ね、その経営内容や活動の様子を聞いたみた。まず訪ねたのが、株式会社田んぼ花の里李(すもも)山の代表取締役、後藤仁氏(59)であった。
 中山間地域の集落で、平成11年から中山間直接支払交付金を活用し、花卉栽培(啓翁桜、ひまわり、紅花等)を中心とした集落営農活動に取り組み、本年一月に花卉部門と土地利用型部門を合併・統合化して株式会社を設立。今年度から新たに米粉の生産・加工販売と紅花の生産に取り組んでいる。その経緯を紹介しよう。
 この会社のある旧南原村の大字李山地区は米沢市の南部、海抜500?600mの中山間地にあり、農地の傾斜度は大きく狭小で分散しており、耕作放棄地の増加、高齢化の進展、鳥獣害の激増など環境悪化が急激に進んでいた。 こういう中で、平成11年度より中山間交付金を活用し農地の維持、管理等に取り組み、14年に任意組合「田んぼ花の里李山」を組織、この頃から切り花を主体とした花卉栽培に取り組んだ。さらにこれを基盤に平成16?17年度には市単独補助事業の『なせば成る「元気な農村」開拓事業』を実施、本格的に花卉栽培の取り組みを開始、啓翁桜の定植を始め多彩な活動に女性や高齢者が参加するようになり、雇用の創出、所得の増大、遊休地解消、鳥獣被害の減少など、地域の活性化が大きく進展した。
 さらに平成19年、転作の緊急一時金(転作踏切料)を契機に、水稲依存からの脱却を図り、この一時金を活用して集落の農地の大半を集積して「株式会社田んぼ花の里李山」を構成員14名の参加のもとに平成21年1月13日に設立した。水稲(3.5ha)、飼料作物(8ha)、大豆(3.1ha)とともに啓翁桜(3.5ha)を中心に花唐辛子、ひまわり、葉牡丹、スプレー菊、紅花など多彩な花卉類を切れ目なく出荷できるように栽培している。訪ねた時には、女性と高齢技能者の皆さんが笑顔の中でひまわりの選花、結束などに楽しそうに働いていた。

◆農地の有効利用のパイオニア

 ついで米沢市窪田地区に拠点をおく農事組合法人ドリームファクトリー、代表小関善隆氏(54)を訪ねた。遊休地や転作地を有効活用して収益性をいかに高めるかということを課題として平成8年に任意組合を設立して、窪田地区を中心に活動をしてきたが、事業量が広域にわたり、転作大豆の増加・乾燥調整作業の増加などを背景に、平成13年7月に構成員8人で農事組合法人へと発展した。
 経営の概要を紹介しておこう。主として土地利用型作物の作業受託を中心に大豆93ha、麦0.6ha、そば31ha、大豆収穫・乾草調整185ha、その他に全作業受託10ha。必要な大型機械(汎用コンバイン五台、ドリルシーダー四台など)や乾燥調整施設を持ち、多彩な活動を行い、転作に対応でき難い農家の支援を行い、広域にわたって歓迎されている。
 但し、最大の難問は、農地が広域にわたり分散していることであり、とりわけそばの遊休地は中山間地域にも広がり、天候や自然条件の変動で色々な困難もかかえているが、これまでそれを乗り越え着実な発展をみせている。
 これら作業受託中心の活動の他、「そば打ち体験教室」や「新そばを楽しむ会」なども開催し、市民や消費者に喜ばれているだけでなく、米沢商工会議所の地域活性化事業プロジェクトにも加わり、県優良品種の「ではかおり」を使って地元メーカーとそば茶の商品開発を行い売り出し好評を博しているという。 「農工商連携」であり、私が15年前から提唱してきた「農業の六次産業化」の実践でもある。これまで、その活動が評価されさまざまな分野で表彰されており、近い将来、おきたま農業の再生・発展の拠点になるであろう。

◆米沢牛の素牛を育てる

 米沢牛は全国に広くその名を知られているブランドであるが、米沢牛の素牛は米沢や置賜地方で供給されることはこれまで少なかった。
 「米沢牛を地域で一貫して作ろう」と繁殖牛に取り組んでいるのが小林康裕君(31才)である。国の農業者大学校を卒業後、兄の竹田眞吾氏の稲作経営(8ha経営)とは別に、繁殖牛部門の重要性に着目、新技術の導入を駆使しながら繁殖牛経営の確立に全力をあげている。
 現在、飼養頭数は繁殖母牛80頭(うち授精卵移植25頭)、平成20年度の仔牛生産頭数55頭(うち授精卵移植15頭)の成績であるが、着実な経営成果をあげつつある。また、兄の水稲稲わらや飼料作物(自作地・作業受託合計16ha)と堆肥交換などを通じて耕畜連携・地域複合体系も作りあげており、将来、地域農業改革の旗手となって活躍することであろう。さらに農業者大学校の卒業生、校友は全国に拡がっており彼らとの交流、ネットワークの形成を通じて、その英知を米沢農業に注入しようとの意欲にも燃えている。次代の米沢農業を担うトップリーダーになることを期待してやまない。

◆農民塾が新しい米沢農業改革の起爆剤に

 米沢市の「農業担い手経営塾」は発足したばかりである。しかし、ここに紹介した3人の塾生たちの活動を拝見して、「老中青」の三結合という望ましい姿で米沢農業の新しい改革路線の道を切り拓く拠点になるのではないかと私は確信している。微力ながらも私もこの米沢農業担い手経営塾に結集した皆さんの期待に応えるべく努力していきたいと考えている。

米沢を動かす「老 中 青」の3結合力

(イラスト・種田英幸)

(2009.08.10)