コラム

今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

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【今村奈良臣】
計画責任・実行責任・結果責任 ―酒田市の新農業ビジョンの紹介を通して―

 「酒田市食と農業・農村ビジョン」が策定、公表された。全国の合併新市町村やJA合併などを機にビジョンの策定中あるいは改訂中のところもあると思う。参考になると思いその理念と骨子を紹介しておきたい。なお、このビジョン策定にあたって私がどういう経緯で関与したか、その背景などについては、後に述べることにして、まずビジョンの骨格とその基本的構想を述べてみよう。

◆基本理念と実現すべき目標

 ビジョンの基本理念として、「鳥海山や最上川などの恵みを活かし、酒田の市民が支え育む食と農」を据えた。
 この理念にもとづく将来像として、(1)彩り豊かな食がにぎわう酒田の実現、(2)安定した経営が持続する農業の実現、(3)地域の魅力あふれ交流する農村の実現、の三大目標の実現に目標を絞った。

◆施策の展開方向

 そして、この目標の実現に向けての施策の展開方向の基本的な視点として、「市民が支え育む食・環境・農村・交流」を掲げるとともに、次の六本の柱に集約される施策の展開方向を大胆に示した。その要点を紙幅の関係で箇条書きの形で表さざるを得ないが、ご理解いただきたい。
1.酒田の食料自給率向上と食育の推進
 1 食料自給率向上
 (1)国内自給率向上への貢献
 (2)市内の自給率向上
 (3)市民へのアプローチ
 2 食育・食文化・地産地消
 (1)食育の推進
 (2)食文化の伝承
 (3)地産地消の推進
 (4)旬を楽しむ
 3 消費者の心を耕す生産者
 (1)信頼を築く
 (2)農業で癒す
 (3)支え合う
2.個性が輝く酒田農業の創造
 1 地域農業を支える組織づくり・経営づくり・人づくり
 (1)みんなでつくる地域農業・農村組織
 (2)めざす経営像「愛郷営農」
 (3)人づくりと多様な人材活用
 2 個性と競争力ある商品づくり
 (1)活力と個性ある産地
 (2)安全・安心・適価
 (3)園芸作物取り組みへの支援
 3 活力を支える生産基盤づくり
 (1)優良農地確保
 (2)効率的な農地利用
 (3)酒田を守る農地・水・環境
3.第6次産業化の拡充
 1 農業から総合産業への意識改革
 (1)総合産業化
 (2)地域に根ざしたフードシステム(農商工連携)
 (3)3:3:3:1の経営戦略
 2 安全・安心な本物づくり
 (1)トレサビリティ・GAP
 (2)高付加価値加工品の開発
 (3)安全・健康な農産物を支える技術と情報
 3 消費者に愛されるブランドづくり
 (1)「酒田の農産物」ブランド
 (2)多様な流通チャンネル拡充
 (3)フードマイレージ
4.資源・環境を活かした地域空間づくり
 1 環境と共生する庄内平野
 (1)鳥海山・最上川・飛島ラインネットワーク構想
 (2)地域資源を活かした地域循環型社会づくり
 (3)グリーンツーリズム
 2 農村アメニティと生物の多様性
 (1)農村アメニティ
 (2)農村景観
 (3)生物多様性・いきもの調査
 3 中山間地域の活性化
 (1)地域農地を守る仕組みづくり
 (2)多面的機能の活用と中山間ネットワーク
 (3)新たなライフスタイルと世代交代
5.交流する農村づくり
 1 だれもが住んでみたい農村づくり
 (1)快適性に富む農村
 (2)利便性に富む生活空間
 (3)安全性に富む農村
 2 交流圏・ネットワークの拡大
 (1)交流圏
 (2)ネットワークづくり
 (3)ふるさとの家
 3 女性の参画推進
 (1)家族
 (2)農村
 (3)農業団体役員
6.農業者・消費者の役割、行政・農業団体の役割、推進主体の設置
 1 農業者・消費者の役割
 2 行政・農業団体の役割
 3 ビジョン推進主体設置の検討

◆計画責任・実行責任・結果責任

 以上、箇条書きのようなかたちで、ビジョンの骨子を紹介するに止めざるを得なかったが、これでおおよその内容は理解いただけたと思う。詳しく知りたい方は事務局の酒田市農政課に連絡をとれば原本がいただけると思う。しかし、いくらビジョンを作っても実行されなければ意味がない。
 そこで私は「新酒田市型農業・農村ビジョン検討委員会顧問」としての立場から、ビジョンの序文に次のような一文を載せた
 「新酒田市型食と農業・農村ビジョン」が策定された。新酒田市の発足、食と農業・農村をめぐる環境変化などの背景のもとで、平成10年3月策定のビジョンを改訂した新しいビジョンである。土門検討委員長、酒井立案部会長、検討委員会、立案部会の皆さんの熱心な調査と討議、そして事務局の献身的な努力の賜物である。すばらしい内容のビジョンはできた。計画責任を果たしたわけである。
 しかし、昔から「絵に描いた餅は食えない」と言われてきた。このビジョンに盛られた方針と内容をいかに実践するか。絵に描いた餅であってはならない。「イノベーション」をキーワードに、農業者、JA、市行政、さらには消費者・市民まで含めてこのビジョンの実践にそれぞれの立場から全力をあげて取り組んでもらいたい。そして、毎年、結果責任の所在を明確にしてもらいたい。そうすることでこのビジョンは輝きを増してくるだろう。

計画責任・実行責任・結果責任 ―酒田市の新農業ビジョンの紹介を通して―

(イラスト・種田英幸)

(2009.10.15)