◆福井県の地産地消への先進的取組み
福井県は「地産地消推進に関する条例施行」(平成20年3月)、「ふくいの食育・地産地消推進計画」(同21年3月)の策定など、食育や地産地消運動の推進に積極的にこれまで取り組んできており、サミット開催の熱意に燃えていたので開催地とさせて頂いた。
主催者の(財)都市農山漁村交流活性化機構(まちむら交流きこう)の斉藤章一専務理事の「いまや直売所は全国で1万3000を超えるまでになり1兆円産業になろうとしている」という力強い開会挨拶のあと、開催地を代表して、福井県知事の西川一誠氏が熱気のこもったふるさと興しとその核となる直売所の役割について挨拶された。西川知事は『「ふるさと」の発想――地域の力を活かす』(岩波新書)を公刊されたばかりのところであり、地産・地消・地食の重要性や地域の活力を蘇がえらせる農産物直売所の果たすべきすぐれた役割などについて熱弁をふるわれた。
◆農業の6次産業化の牽引車・農産物直売所
それらを受けて、全国農産物直売ネットワーク代表である私は、今から15年前に全国の農村の皆さんに向けて「農業の6次産業化の推進に全力をあげよう」と呼びかけたこと、その6次産業化の牽引車が農産物直売所に具現されていることを踏まえつつ、「地域興しへの私の10の提言」を行った。とりわけ、直売所は食と農の結節点であること、次代を担う子どもたちへの食農教育の拠点であること、農村の高齢技能者や女性たちのエネルギーの登場と再生の場であることなどを踏まえて、全力をあげて更なる前進を行うよう参集者に呼びかけた。
◆先進農産物直売所代表の熱い語りかけ
続いて直売リーダーの熱のこもった活動報告があった。
全国を代表して、三重県玉城町の(有)玉城アクトファーム代表の野口好久氏がその運営する「ふるさと味工房アグリ」の活動10周年を踏まえて熱弁をふるった。
ふるさと味工房アグリの概況を説明しておこう。
農業観光公園「アスピア玉城」内に直売所はあり、養豚農家を中心に農家50名が出資する(有)玉城アクトファームが直売所(130?)、レストラン、加工施設(ハム・ソーセージ・パン等)を運営。出荷会員は約100名。会員農家は案内係(当番制)として毎日店頭に立つ。目玉商品は、農産物、豚肉、米粉パン、地元小麦パン等。地域農業振興を目的とするため農産物仕入れは行わない。会員農家が種まきから収穫まで指導する農業教室が人気(参加者は一律年間3000円)。毎年、トウモロコシ、トマト、米、ぶどうなど9作物ほどの講座を近隣消費者向けに展開する。直売所売上高は約4億円(うち農産物は1億5000万円)。豚肉は学校給食にも供給する。
以上のような概況を踏まえ、野口好久氏は10周年を迎えた玉城アクトファームの4つの経営概念、すなわち、(1)あいさつの飛び交う明るい職場づくり、(2)会員農家の積極的参加と従業員のやる気、(3)アグリの置かれた自然環境を生かす取組みと集客イベントの積極的な開催、(4)背伸びしないで、泥くさく、地道な活動を、という4つの柱を中心にユーモアを交えつつ報告された。
続いて地元福井を代表して「百姓の館」(越前市)代表の関本新右衛門氏と「ファームビレッジさんさん」(福井市)代表の安実正嗣氏が、それぞれ設立から現在に至る取り組みの理念、活動指針、活動の現況と当面する課題など翌日の現地視察の訪問先でもあったのでユーモアを交えて話してくれた。これらの報告は翌日の現地視察と合せて後で述べることにしよう。
◆活発な6つの分科会の討議
今回のサミットでは、分科会をより充実してほしいとのかねてからの要望が強かったこともあり、6分科会を設置し討議時間も90分。そして全体総括会議も充実させることとした。
第1分科会「直売活動における安全・安心対策」、第2分科会「直売組織の運営方策」、第3分科会「お客様対応の工夫と顧客サービス」、第4分科会「直売所が進める食育・給食活動」、第5分科会「品揃えの充実に向けた対策」、第6分科会「地域との協働・地域社会への貢献」というテーマで、各分科会とも満員の盛況で、90分の予定時間をはるかに上回る熱心な討議が深められた。
この分科会の討議の結果は、各分科会の座長から全体会議で報告されるとともに、農産物直売所ネットワーク副代表の秋岡栄子氏から総括報告が行われた。
この分科会の討議と総括報告には、全国の各直売所が直面している多くの課題が内包されていると思うが、その中で特に重要と思われる課題にのみふれておきたい。
◆簡易な先端機器も活用しよう
直売所が直面している最大の課題は販売している農産物についての安心・安全にいかに取り組むかということで活発な討議が集中した。第1分科会の報告・討議の中では多くの直売所では、生産者・出荷者に使用している肥料・農薬等について記帳を義務づけているところが多かった。この記帳を徹底して、今後とも消費者、購買者から疑問や質問が出た時には納得してもらえるよう答えることで意見は一致した。
しかし、いくつかの直売所の代表者から「消費者とりわけ若い主婦の方々の中には、エキセントリックな方々も居て、記帳していると言ってもそれは信用できない、客観的に証明できる資料ではないではないか、と訴えられる方も多々いる。どう対処したらよいか」という質問も出された。それに対し、それは説得するしかないだろうという意見が多かった。
そこで、私は「そういうエキセントリックな消費者に対応するためにも、また、高齢者や女性の生産者にもきちんと対応してもらうためには、農文協(農山漁村文化協会)が開発し、全力をあげている普及を推進しているタッチパネル式のルーラル電子図書館を導入して、それを活用しつつ、消費者にも生産者にも納得してもらったらどうだろう」と提案していた。このタッチパネル式のルーラル電子図書館は高齢者でも女性でも簡単に操作でき、使用可能な農薬などたちどころに判る便利なもので、すでに全国の220を超えるJAやその直売所でも導入し、また、各県の農業大学校などの教材としても活用されている。
◆野菜の生産を着実にふやすにはどうすべきか
福井県は野菜の県内自給率は全国でも下から2位で、最下位は富山県だという。こういう現状をどう改善すべきかという質問もでた。特に葉菜類の県内の生産・供給が不振だという。これに対して私は「直売所やJAの営農指導、生産振興を担当する部局で、苗の供給希望者にきちんと行ったらどうだろう。そうすれば確実に30日とか50日後には生育した野菜が出荷できるのではないですか。労働力の少ない生産者には苗箱1箱、多い方には3箱というように、それも1週間おきに必要と思われる野菜苗を供給すれば、予定した日には必ず出てきますよ」と助言した。
◆社会貢献の新しい視点
第6分科会では、直売所の果す社会貢献についての討議が行なわれた。食農教育、学校給食などの多くの貴重な実践が紹介された。その中で私の注目を引いたのは、直売所の中に「小学校に良い図書を寄贈しよう」と掲げた箱を置き、その中へ買い物を終えた後のレシートを入れてもらい、その金額を1カ月ごとに集計して、その金額の0.1%を小学校への図書を購入して寄贈するという活動をしている直売所の報告があった。こうした活動を通して、次代を担う小学生を育てるという社会貢献活動は全国に拡げたいものだと痛感した。
大会の翌日は福井県下の代表的直売所の提案と交流を行ったが、紙数の制約で省略せざるをえない。次の機会に述べてみたい。