自民党も民主党の政策にならって、こんどの総選挙では食料自給率の向上を目標にして、農地面積や年齢に関係なく、意欲ある農家をサポートする、という政策を政権公約に掲げて選挙戦にのぞんだが及ばなかった。自民党のこれまでの農政は、農業構造を改革するという名目で、大規模農家だけを選別して、農政の対象にするという政策だった。こうした選別政策は国民の支持を得られない、と考えて変えたのだろう。
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両党とも食料自給率の向上が政策目的なのだから、食糧を作っている全ての農家を政策の対象にすることは、しごく当然のことだ。だが、詳しくみると、民主党は「販売農家」に限定しているし、自民党は「意欲ある農家」に限定している。だが、それらの定義は不明だ。
民主党の初心が、全ての農家を農政の対象にするというのなら、今後の農政で「販売農家」だけを対象にするということは、初心から離れることになるのではないか。民主党がいう「販売農家」の定義は重大な問題になる。それは、いまの政府がいう「販売農家」と同じなのか。
政府の定義によれば、「販売農家」は175万戸で46%に過ぎない。そのほかに「自給的農家」と言われる農家が77万戸で21%ある。農地が10a以上で、30a未満の農家だ。水田なら30aあれば30俵の米が作れる。30人分の米だ。とても自給しきれない。それでも「自給的農家」と言われている。さらに、そのほかに「土地持ち非農家」と言われる農家が122万戸で33%ある。農地を5アール以上で、10a未満持っている農家だ。水田なら10aあれば、10俵の米を作って自給率の向上に貢献できる農家だ。だが、いまの農政のもとでは米を少ししか作らないか、作るのを断念している。こうした農家は農家ではなく非農家だと言われている。
食糧自給率の向上が農政の第1の目的というのなら、食糧を作っている全ての農家や、これからの農政によっては作ろうとしている全ての農家を農政の対象にして、所得補償制度を作るべきではないだろうか。
だが、この政策も次善の策だ。最善の政策は、市場が生産費を保証するように誘導する政策ではないだろうか。そうすれば、自給率向上に貢献した分に正確に比例して所得を補償されることになる。たとえ1俵でも米を作れば、その分だけ報われる。
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「販売農家」でない「自給的農家」はもちろん、「土地持ち非農家」と言われる農家も、わが家は農家だと思っているし、農政に対して重大な関心を持っている。民主党の農政の初心が、こうした農家の心の琴線に触れて圧勝したことを決して忘れてはならない。
そうすれば、民主党にたいする農村部の支持も一時的な支持ではなく、永続的な支持に定着するだろう。また自民党も「意欲ある農家」と「意欲のない農家」とに選別する、などという不遜な政策を、これからは改めるだろう。
しばらくの間、選挙はないだろうから、バラマキだ、とか票集めだ、とかいう次元の争いではなく、少数政党を含め、各政党は農政を競い合い、磨き合ってほしいものである。
(前回 民主党と農協の関係修復を急げ)