来年試行を予定している米を例にして考えよう。米の生産費は社会経済の言葉で、米を生産するために要した金額は社会全体で何円だったかを計算したものである。誰が負担したかは問わない。農水省の最近の資料でみると、07年産の全国平均の生産費は1万6412円(以下すべて玄米1俵=60kgあたり、A)だった。
これに対して、経営費は私経営の経営成果を計算するときの言葉で、米の生産のために経営主である或る農家が負担して支払った金額は何円だったかを計算したものである。同じ資料でみると9372円(B)だった。
この経営費に家族労働費4500円の80%である3500円(C)を足し算すると1万2872円(D=B+C)になる。これが農水省が予算要求したときの補償単価である。
これを補償単価にする場合、生産費を補償単価にする場合と比べて3540円(E=A-D)少なくなる。この資料では、農家は平均105俵(F)作っているので、農家1戸当たりでは37万円(ExF)少なくなる。
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生産費と経営費の違いは、自己労賃と自作地地代と自己資本利子の取り扱いの違いである。生産費はこの3つを含むが、経営費はこの3つを含まない。
労賃について、もう少し詳しくみよう。労働は自己(家族)と雇用がある。このうち雇用者には実際に労賃249円(G)を支払うが、家族には支払わない。米の場合、大部分は家族労働である。経営費の計算では、労賃の大部分である家族労賃を含めないで、雇用労賃だけを含める。
しかし、生産費の計算では、この家族労働を正当に評価して4500円(H)とし、雇用賃金と足し算して労働費を4749円(G+H)にする。地代や利子も同じようにする。つまり、経営費の計算では、実際に借りた土地や資本の利子だけだが、生産費の計算では、実際には支払われないが、自作地の地代と自己資本の利子を正当に評価して含める。
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だから、生産費を補償単価にすれば、生産に貢献した人すべてが、正当な対価を得られる。家族も正当な対価が得られる。自作地も自己資本も正当な対価が得られる。
しかし、補償単価が生産費より低くなると、自作地地代や自己資本利子は対価が支払われなくなる。さらに低くなると、家族労働が犠牲になって、正当に支払われなくなってしまう。今度の予算要求では、ここまで低くして、家族労働の20%が犠牲になることを強要するものといえる。農家1戸あたり37万円(ExF)を社会に無償で贈与せよと強いることになる。これが正義だろうか。今後の議論を待とう。
ちなみに、予算要求額3447億円を生産目標の815万トンで割り算して、1俵あたりにすると2583円になる。補償単価はもっと高くできるのではないだろうか。
(前回 民主党が描く農業構造)