米の国際競争力を考えるばあい、いくつかの論点があると思います。が、その前に実態をみておきましょう。農水省の資料によれば、昨年1年間の日本の米の輸出量は援助米を除くと1310トンにすぎませんでした。一昨年の1年間は1294トンでした。これは、国内消費量の約900万トンの0.014%にすぎません。
これほど少ないのだから無視してよい、といいたいのではありません。米の輸出振興は、以前、政府が農政の主要な柱の一つにしていたし、それを支持する論者も大勢いました。日本の米は旨いから、自信をもって海外へ売り込めというわけです。政府も全力で応援するように言っていました。まことに元気のいい提案でした。
だが、その後の実態は、この数字が示している通りです。政府の努力が足りなかったのではありません。もともと無理な政策だったのだと思います。当時、事業仕分け人がいたら、この政策は税金のむだ使いだとして、ばっさり切られていたことでしょう。
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この問題は、いまの農政の最重要課題である食糧需給率向上のなかで考えるべき問題です。このばあい、自給率は熱量で計るべきです。果物などを含めた農業全体の振興が目的なら、金額で計ってもよいでしょう。しかし、果物などが不足したからといって、それほど大きな社会問題にはなりません。
一昨年に世界的な穀物価格の暴騰があって、各地で激しい抗議運動が起きました。この暴騰の主な原因は投機資金によるものと思いますが、穀物在庫量の異常な減少が引き金になったことは確かです。それ以後、わが国でも食糧自給率の向上が大きく叫ばれたのです。それは、もちろん熱量で計った自給率です。いま、わが国の穀物自給率は28%という低さです。このことが問題の焦点です。
赤松農水大臣は、米を100万トン増産して、米粉にし、パンやメンにして普及したいと言っています。そうして食糧自給率を向上させるというのです。私も大賛成です。この100万トンと比べると、いまの輸出量の1310トンは3桁ちがいます。
米の無理な輸出振興ではなく、米粉や飼料米で新しい米の国内需要を掘り起こし、拡大することこそが、自給率向上の本筋の政策だと思います。
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ここで言いたいことは次のことです。果物などを含めて農産物の輸出に反対している訳ではあるません。むしろ大賛成です。もちろん米の輸出もいいでしょう。わが国の農業を発展させることになるからです。
ですが、自給率を上げるほどに大きな成果を期待しているのなら、また、わが国の水田農業を再生させる切り札と考えて、政治が米輸出の支援に力を集中するというのなら、そうした期待はやがて裏切られるだろう、ということを言いたいのです。力を集中すべきは、米粉などへの支援ではないでしょうか。
前おきが長くなってしまいました。主題の具体的な検討は次稿にします。
(前回 兼業農家・高齢農家の評価が変わった)
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