表(下)はFAOの資料で世界の穀物消費の状況を地域別にみたものである。人口1人当たりでみると、先進地域は開発途上地域の約2倍の穀物を消費している。それは、先進地域の人達が、開発途上地域の人達の2倍の穀物を直接に食べているのではなく、多くの穀物を家畜に食べさせ、その家畜の肉を人間が食べているからである。この意味で肉は贅沢品である。
贅沢品だから、開発途上地域の人達は食べられないで、先進地域の人達は食べられるのである。このように、穀物の消費状況は、食糧問題における世界の中の格差を隠すことなく、如実に示している。
地域別の穀物消費量 (資料はFAO STAT、2005年) |
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単位は(人/トン) | |||
人口 | 穀物消費量 | 1人当たり 穀物消費量 |
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先進地域 (アメリカ、ヨーロッパ、オセアニア) |
16億4238万5000 | 8億8121万5000 | 0.537 |
開発途上地域 (アフリカ、アジア) |
47億8807万2000 | 11億2932万2000 | 0.236 |
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世界の飢餓人口は増え続けていて、いまや10億人を超えている。しかし、食糧の1人当たり摂取カロリーを世界平均でみると2781カロリーで、日本の2743カロリーとほとんど同じだし、最近減っている訳でもない。
つまり、世界の人達が協同して、食糧を平等に分けあえば、世界中のすべての人が、日本人と同じカロリーの食糧を食べられるのである。
だが、先進国の人達が贅沢な肉を食べるために、2倍の穀物を消費しているので、開発途上国では健康な生活ができないほどに、穀物を食べられない人達が大勢いる。
つまり、世界の食糧問題は、当面は食糧の絶対的な不足問題というよりも、格差問題なのである。矮小であいまいな人道問題ではなく、市場がもたらした不正な経済問題なのである。それは、市場が本性として持っている不正の1つの証しである。多くの評論家はこの不正に目をつむっているし、多くの政治家はこの不正を隠している。
こうした世界の状況の中で、わが国も穀物を餌にして、大量の肉を消費し続けている。これは不正義であるし、やがて途上国の厳しい非難を浴びて不可能になるだろう。
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ここで重要な注釈がある。それは、牛肉や羊肉は豚肉や鶏肉と違って、穀物を餌にしないでも、草だけで肉を生産できることである。つまり、豚肉や鶏肉は贅沢品だが、牛肉や羊肉は贅沢品ではないことになる。
だから、将来の食糧の絶対的な不足や食糧の格差問題を考えるとき、豚肉や鶏肉の消費を減らして、牛肉や羊肉の生産を増やすべきである。
だが、わが国のばあいは、牛肉の生産にも穀物を餌として大量に使っている。だから、豚肉や鶏肉の消費量を減らすだけでなく、牛肉の生産に穀物を使わないで、草を餌にした牛肉生産に切り替えるように、政治が誘導すべきだろう。
しかし、わが国は風土的条件に恵まれていて、草が生育できる土地なら穀物も生育できる。だから人口扶養力が多い穀物を生産してきた。つまり、草しか生育できない土地は北海道の一部を除いて、どこにもない。だから、安価な穀物を輸入して餌にしてきた。
このように、わが国は草の生産が増やせないのだから、ジャージー種の牛のように笹を餌にした牛肉生産の技術開発や、将来は森林などの起源のバイオマスを餌にした牛肉生産の技術開発を急ぎ、日本型の畜産を確立すべきだろう。
それは、同じ風土的な条件の下にある隣の韓国だけでなく、東アジアの畜産の発展と食生活の改善にとって、先駆的な技術開発になるだろう。
そうすれば、餌にする穀物の輸入が減り、国産の餌の生産が増えるので、世界の食糧問題の解決に貢献できる。それだけでなく、国内農業を振興できるので、食糧安保のための食糧自給率向上に大きく貢献するだろう。それは農政の最重要課題への大きな貢献であるし、畜産政策の長期的にみた最重要な課題である。
(前回 拝金主義農政への危うい転換)
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