コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
理念のない民主党農政と理念だけの自民党農政

 参議院選挙が3週間後に迫り、民主党と自民党が公約を発表した。両党の公約の農業政策の部分をみてみよう。
 民主党の農政の公約は、公約全体の中で、その比重を軽くしたようだ。昨年は、食糧安保という理念を掲げ、そのための戸別所得補償制度の創設を看板にして、熱い公約にした。しかし、今年は熱気がさめたようだ。
 自民党も農政の公約を、それほど重要視していないようだ。新しく農業の多面的機能の維持という理念を掲げて、そのために、新しく日本型の直接支払制度の創設を公約している。しかし、理念だけで具体性がない。

 民主党の農政公約の柱にしている戸別所得補償制度については、コメ以外の「他の品目に拡大します」というだけである。制度が目ざす目的は、なにも書いていない。
 この制度は、選挙目当ての「ばらまき」だ、という批判がたえない。そうした批判に答えるためには、昨年の選挙で、この制度の創設を公約したとき、制度の目的が食糧安保であるとしたが、こんどの公約でも、あらためて明記すべきではなかったか。そして、この目的に貢献する度合いに応じて所得を補償する制度だから、決して「ばらまき」でないことを強調すべきだったろう。

◇   ◇

 一方、自民党の農政公約の目玉は、日本型直接支払制度の創設である。この制度の目的は多面的機能を正当に評価し、それを農業者に還元することにあるという。目的は明確である。だから、全ての農地を対象にする、という点も説得的であるし、民主党との違いは、際立っている。
 しかし、多面的機能を、制度として具体的にどう評価するか、についての説明がない。多面的価値の範囲をどこまで採るのか、景観や文化の維持まで採るのか、示していない。また、評価の単価を、どう決めるのか。これらの客観的な評価は、きわめて難しい。だから、それを行うつもりはないだろう。
 では、支払単価はどうして決めるのか。他方で「再生産可能な適正価格」を望むというから、そうなると民主党がいう「生産コスト」とほとんど同じになるだろう。民主党との違いは、制度の目的が変わっただけだが、抽象的になって、政策の評価はしにくくなり、曖昧になった。

◇   ◇

 両党の間の違いよりも、もっと重大な問題は、両党が共通して市場価格の下落を前提にしていることである。その対策としての制度だ、という点である。市場価格が下落しても、再生産を保証するというのだが、いったい、どこまでの下落を想定しているのか。
 市場価格を下げないで、市場価格だけで充分に再生産が可能になることを目ざすべきだ、と筆者は考える。そうすれば、こうした制度は不必要になる。
 だが、残念ながら、両党ともそう考えていない。民主党はEPA、FTA交渉を「積極的に進める」といっているし、自民党は各国の「多様な農業の共存」というが、他方でWTO交渉の「早期妥結」やEPA、FTA交渉を「積極的に行います」といっている。
 だから、米価の下落の下限は国際米価と考えるしかない。そこまで米価が下がれば、この制度は破綻するだろう。

◇   ◇

 いま求められているのは、米価の下落を前提にした対策ではなく、米価を下落させないための政策である。それは、目新しいことではない。300万トンの棚上げ備蓄や、米粉などの新規需要を開拓するための、強力な政治の支援である。そうした支援があれば下落対策も効果を発揮するだろう。
 今度の選挙で、各党が競いあってほしいのは、この点である。

(前回 高齢農業者に手切れ金
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(2010.06.21)