財政負担型農政に変える理由は何か。政府は、経済成長戦略の主要な柱に、FTAなど関税を全廃する自由貿易体制の確立を据えている。その際、農業が障害になる。
そこで、米の輸入を自由化し、米価が国際米価にまで下がっても、財政の負担で生産費を補償して、米の生産を続けられるようにする、というのである。これが財政負担型農政に変える第1の理由である。この政策はWTOなどで国際的に容認されているし、EUなどでは、実際に実施されている。
自由貿易は、それほど重要な体制だろうか。食糧主権や食糧安保を侵してまでも推進すべき重要な体制だろうか。
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財政負担型農政に変える第2の理由は、財政負担に代えることで、いわゆる農業保護の程度を透明にしよう、というものである。
10アール当たり1万5000円などと、農業保護の程度を金額で示して見やすくし、日本の米作りは、これだけ多い金額を政府が支払って保護しないと生産ができない程に、国際的にみて非効率であることを、農業者に自覚させ、もっ効率を上げるように圧力をかける、という訳である。
国際米価は、それほどに公正な価格だろうか。国際米価は、いうまでもなく市場米価である。市場米価は、それを基準にするほどに公正な価格ではなく、米には市場で評価しきれない価値があることは、多くの人が認めている。
透明にすべきは、いわゆる農業保護の程度ではなく、市場の不当性ではないか。
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さて、図は消費者負担型農政の日本や韓国と、財政負担型農政のEUとを比較したものである。
日本は図の中で、右下に位置している。つまり、国内価格は国際価格より高く、財政負担は少ない。アメリカよりも少ないのである。
日本と対照的なのはEUで、左上に位置している。つまり、財政負担を多くして、国内価格を国際価格と同じにしている。
日本やEUのように、先進国で農業が国際的な市場競争で弱い国は、国際価格では生産費を償えない。だから、日本のように、国内価格を国際価格より高くするか、EUにように、財政負担で償うしかない。
先進国でも新大陸国のアメリカや新興国のブラジルにように、国際競争に強い国は国際価格で生産費を償えるので、財政負担が少なくても、生産を続けられる。つまり、図の中で左下に位置している。
以上のように、世界の農政は3つの類型に分かれる。
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いま、日本はEUを目指して、図の中で、左上の方向に移ろうとしている。アメリカを目ざしたいのだが、それは不可能である。日本とアメリカとでは、風土的条件も歴史的条件も全く違うからである。
そこで、日本はEU型農政、つまり財政負担型の農政を目ざすしかないというのだが、それは、やがて失敗するだろう。EUには、財政負担型農政を採る条件があるが、日本には無いからである。
条件の1つは、国際価格と生産費との差がそれほど大きくないことである。だから、財政負担の金額は、それほど多くない。
もう1つの条件は、財政負担、つまり、いわゆる農業保護に対する多くの国民の支持である。EU諸国は歴史的に数々の戦争を経験したので、多くの国民は、食糧安保の重要さを、きちんと認識している。
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日本にはこの2つの条件が、ともに欠けている。国際価格と生産費の差が大きいので、財政負担の金額が多額になる。それをみて、食糧安保に鈍感なマスコミなどは、過保護だといって騒ぎ立てるだろう。また、実際に農業者の収入の大部分が補助金になってしまう。こうした事態を、農業者は我慢できないだろう。
しかも、財政は大赤字である。だから、やがて財源不足になり、この政策は破綻してしまうだろう。そして、安い米価だけが残る。その結果、米作りを放棄する農業者が続出し、食糧自給率が極端に下がり、食糧安保は危機的な状態になる。
こうした事態を避けるには、政府は米価の下落を放置するのではなく、多くの野党が要求しているように、余剰米を買い取り、米価を回復しなければならない。そうして、自由な貿易と食糧の安全保障を両立させる道を、叡智を集めて見つけ出さねばならない。
(前回 低米価政策の行きつく先は1俵3500円)
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