コラム

「正義派の農政論」

一覧に戻る

【森島 賢】
民主党農政の中間評価が正月に決まる

  政府は、米の戸別所得補償制度による補償金の固定部分を、年内に支払うという。周知のように、10アール当たり一律1万5000円の補償金である。
 これまで、野党から、バラマキだ、として批判されてきたが、いよいよ民主党農政の柱である政策の成果が評価される。
 1haの農家は15万円の、いわば、暮れのボーナスになるし、10haの農家なら150万円のボーナスになる。決して僅かな金額ではない。しかも来年3月までには、変動部分の追加支払がある。
 これが、農村の正月で主な話題になるだろう。農業者はどのように評価するだろうか。
 正月に地元の選挙区へ帰った政治家は、農業者の評価に、よく耳を傾けてもらいたいものだ。地元の有権者である農業者の評価を、虚心に聞き取れる洞察力があり、農政に反映できる実行力のある政治家が、つぎの選挙に勝てるだろう。
 つまり、農業者の評価が、今後の農政が進むべき基本的な方向を決めることになる。

 民主党農政の評価は、その柱である戸別所得補償制度に対する評価が、その中心になる。その評価は、いくつかの基準でなされるだろう。
 評価の第1の基準は、生産コストを償うという点である。この点は、農家所得の下落に岩盤ができたという、高い評価ができる。

◇   ◇

 当初は、生産費を補償するといっていた。しかし、実際に償うのは、農水省がいう、独特な、意味の分からぬ、いわゆる生産コストであって、生産費ではない。農水省が片仮名を使うときは、眉に唾をつけるとよい。農家の労働は80%しか償われないし、地代と資本利子は、全く償われない、という不正義なものである。
 また、平均の、いわゆる生産コストしか償われない。だから、半分の農家は生産コストさえも償いきれない。
 これらを、農業者は、どう評価するだろうか。

◇   ◇

 評価基準の第2は、戸別所得補償制度の対象農家である。
 当初は、年齢や経営規模の大小にかかわらず、全ての農家を対象にする、といっていた。
 この点は、多くの農業者から、これまでの大規模農家だけを優遇する、選別政策を否定した新鮮な政策だ、として高く評価されてきた。そして、昨年夏の政権交替の大きな原因になった。
 これに対し、多くの野党はバラマキだといって、批判を強めてきた。

◇   ◇

 しかし、その後、10アール以下の農家を対象からはずした。
 10アールからは、9俵の米がとれる。その分だけ、食糧自給率の向上に貢献している。食糧自給率の向上は、この制度の目的であり、国家戦略だから、その分も補償の対象にすべきではなかったか。
 野党の批判に、たじろいだのかも知れないが、しかし、その分だけ制度の目的が、あいまいになった。

◇   ◇

 評価基準の第3は、低米価を放置している問題である。
 農業者は、政府が低米価を放置しているのは、TPPなど、輸入自由化に備えているからだ、と考えている。TPPへの参加には、大多数の農業者が反対している。
 多くの野党もTPPへの参加に反対している。そして、米価回復のために、政府が棚上げ備蓄を前倒しで実施し、余剰米を緊急に買い取ることを要求している。
 だが、政府は、かたくなに拒んでいる。米価が下がっても、戸別所得補償制度で所得を補償するからいいではないか、と考えているからである。
 これらの点を、農業者はどう評価するだろうか。そして、政治はどう応えるだろうか。多くの国民が注目している。


(前回 TPPのための高齢者排除

(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)

(2010.11.29)