昨年11月に、アメリカの通商代表部の代表は、日本の外相に対して、日本がTPPに参加する条件は、米国産牛肉に対する輸入制限の緩和だ、と言ったようだ。そのように新聞が伝えている。
また、今月初めにも、アメリカ議会での証言で、同じ主張を繰り返している。
ここでいう輸入制限とは、日本がBSE問題で、輸入する牛肉に危険部位の除去と月齢制限を課していることを指している。
これは、科学的根拠がない。だから、WTO協定に違反する非関税障壁だ、というのがアメリカの主張である。
◇
科学的根拠とは、いったい何だろうか。
BSEの研究に、それほど長い歴史があるわけではない。BSEは、クロイツフェルト・ヤコブ病ともいわれるが、両氏がこの病気を発見してから、せいぜい100年しか経っていない。遺伝子組み換え技術の歴史は40年である。ちなみに、原発の歴史は、まだ60年しかない。
それに対して、人類の歴史は数十万年である。つまり、人類は数十万年の間、食べ続けてきた。人類に進化する以前も食べていたのだから、生命が始まって以来の数十億年の歴史といってもいいだろう。
食の安全は、こうした長いながい人類の叡智の歴史の上に築かれたものである。
それと比べて、せいぜい100年の間に観察された事実に基づく科学を、どれほど信じていいのだろうか。それに基づく科学的根拠といわれるものを盲信することこそ、非科学的ではないか。つねに疑うことが科学の真骨頂なのである。しかも、食の安全は、直接生命にかかわる。
◇
遺伝子組み換え食品をみてみよう。
いま、アメリカで生産する大豆のうち、92%が遺伝子組み換え大豆である。トウモロコシは80%である。つまり、大部分が遺伝子組み換えの品種である。そしていま、小麦も遺伝子組み換え品種の本格的な商業生産を検討している。
また、アメリカ政府は、輸出倍増計画を重要な経済政策にしている。
一方、日本の輸入大豆のうち、71%をアメリカから輸入している。トウモロコシは96%である。こうした状況の中で、日本には遺伝子組み換え食品は、そのことを表示する義務がある。
◇
やがて、アメリカは、日本の表示制度を科学的根拠のない輸入障壁だ、として声高に言いつのるだろう。
日本がTPPに参加すれば、こうしたアメリカの強い要求を拒否できるだろうか。一握りの輸出企業のために、食の安全さえも犠牲にする、というのだろうか。
これは、直接生命にかかわる一大事である。
(前回 TPP問題で逡巡する日生協)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)