政治が科学を利用することは良いことだ。だが、悪用はいけない。
浜岡原発の停止要請の理由は、浜岡はマグニチュード8程度の大地震が起きる確率が87%と高い、という科学的な予測を根拠にしている。だが、地震が巨大なら原発が破壊されるわけではない。同じ大きさの地震でも、震源地が近ければ震度は大きくて、大きな被害を受ける。問題は地震の大きさではなく、震度の大きさなのである。この程度のことは、専門家でない筆者でも分かる。
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だから要請文の中に「想定東海地震の震源域に近接して立地しており・・・」という文言が入っている。近いから大きな震度の地震が予想される、というのだろう。だが、どうして、そんな回りくどいことをいうのだろうか。なぜ、震度を予測した資料を使わなかったのか。そこには悪意が潜んでいるとしか思えない。
マグニチュードの大きさで、津波の大きさも表現し、津波被害も考慮しているのだ、と善意にとりたいが、しかし浜岡以外の原発は安全だ、と思い込ませたいという意図に重大な悪意がある。
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震度予測の資料は、文部省が作っているもので、10年ほど前から全国を対象にして、各地の震度を詳しく予測している。図(下参照)は、その一部である。なぜ、これを根拠にしなかったのか。それは、政府にとって都合が悪かったからではないか。
この震度予測によれば、浜岡原発は大震度の地震が起きる確率が、たしかに大きい。しかし、そのことは以前から分かっていた。だが、政治はこれまで長いあいだ無視してきた。そのことが分かってしまう。これは政府にとって不都合と考えたのだろう。
ここには、政治がこれまでの原発政策がもたらした今度の大事故に真正面から向き合って、根本的な反省をする姿勢が見えない。
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もう1つ、この震度予測では、福島第1原発の地点では、大震度の地震が起きる確率は、ほとんどゼロになっている。だから、首相の論理に従えば、福島原発には特別の安全対策をしなくてもよかったことになる。だが、実際には大事故が起きてしまった。予測と違う重大な事故が起きたのである。この点も政府にとって不都合だ、と考えたのだろう。
この点を科学者に問い詰めるつもりはない。それが確率論の限界であるし、科学の限界でもある。
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ここで言いたいのは、科学を万古不易の真理と妄信し、科学の限界への洞察力のない政治が、今度の福島原発の大事故を起こしてしまったことである。そうして、農業者や漁業者の仕事を奪い、これまでの住居に住めなくしてしまった。そのうえ、今度もまた、科学を振りかざして悪用し、浜岡原発だけを悪者に仕立て上げ、注目をひきつけ、他の原発の危険を覆い隠そうとしている。これは決して許されないことである。
ついでにひとこと言っておきたい。こうした科学の妄信は食品の安全問題でもみられることである。
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もう1つ言っておかねばならない。かつて、アインシュタインやオッペンハイマーや湯川秀樹は、科学の成果を政治が悪用し、原子爆弾を作って広島、長崎に落としたことについて反省し、怒ってもいた。だがいま、原発は科学的にみて安全だ、と言って政治に利用された科学者が反省している、という話を聞いたことがない。まことに残念なことである。
(前回 東日本復興計画の理念が見えない)
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