コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
原発の風評被害が続いている

 原発事故にまつわる風評被害が続いている。
 最も甚大な被害を受けているのは野菜である。毎日、しかも食べ物として体内に取り入れるものだから、健康に重大な影響があると考えるのだろう。ことに子どもを持つ親は、深刻な不安を抱いている。しかも、通常の災害と違って、長い期間、被害が続く。
 原発の近くの福島だけではない。原発から遠く離れた産地の野菜の需要も減っている。
 国内だけではない。海外でも神経を尖らせている。野菜などの食べ物だけでなく、工業製品にまで風評被害が拡がっているという。
 風評被害とは、誤った噂による損害である。だが、いまの風評被害は、必ずしも誤った噂とは言い切れない側面がある。
 政府は、市場に出廻っているものは安全だ、と断定的にいうが、それは、正確ではない。市場に出廻っている野菜の全てについて、一つ一つ放射能を測定し、安全を保証しているわけではない。僅かな数の測定結果からの推論である。だから、「ある確率で、高い放射能を持っているとは言えない」というのが正確な言い方である。
 政府は安全だというが、国民は信用していない。風評被害は、国民が政府を信頼していないことの証左である。それは、原発事故についての情報を隠蔽しようとする政府に対する不信であり、情報公開の遅滞に対する不信である。

 下図は風評被害の程度がどれ程のもので、最近までどのように推移してきたかを示したものである。それを東京市場での葉菜類の野菜の売上金額の平年との比率で示した。
 なぜ、それが風評被害の程度をしめすか、を説明しよう。

下図は風評被害の程度がどれ程のもので、最近までどのように推移してきたかを示したものである。それを東京市場での葉菜類の野菜の売上金額の平年との比率で示した。

 なぜ、葉菜類か。
 それは、原発事故によって拡散された放射性物質の影響を、直接に、かつ全面的に受けるからである。それゆえ敏感である。だから、まず初めにホウレンソウなどの葉菜類の野菜が出荷を制限された。そして価格が下がった。ホウレンソウだけではなく、葉菜類全体の価格が軒並み下がったのである。

 なぜ、東京市場か。
 福島や近隣の県で作った野菜だけが、売上減少という被害を受けたのなら、それは風評被害ではなく、原発被害そのものである。だが、実際にはそれだけではなく、全ての産地の野菜、つまり、市場全体の野菜の価格が下がって被害を受けたのである。まさしく風評被害である。

 なぜ、売上金額か。
 通常の災害なら、被害を受けた産地からの供給量が減るので価格が上がり、供給量と価格を掛け算した売上金額が増えることになる。だが、こんどの原発被害のばあい、供給量が減っても、風評で、それ以上に需要が減退して価格が下がったので、供給量と価格を掛け算した売上金額が減った。
 また、被害地からの供給量が少ない品目は、風評で需要が減退しているのに、供給量がそれほど減らないので価格が大幅に下がり、売上金額が減った。

 さて、図に戻ろう。風評被害が最も大きかったのは3月下旬から5月中旬にかけての2か月間である。5月上旬が最もひどく、売上金額は平年の51%で、約半分になってしまった。その後、回復ぎみに見えるが、それでも最近の6月上旬は、まだ平年時の74%にしか回復していない。
 風評被害は、まだまだ続く。農家への賠償は迅速に、かつ万全に行われなければならない。

 風評被害について、いま政治に求められていることは、「不安を煽る」などと言って、情報を隠蔽することではない。全ての情報を迅速に公開することである。
 公開すべき情報の収集にも問題がある。現場の正確な情報を、きめ細かく収集しなければならない。そうすることで、情報の精度を上げることである。
 そして、風評被害をなくすために何より重要なことは、政治に信頼を取り戻すことである。

 風評被害を軽減することは、当面の政治の役割である。それとともに、災害を再び起こさないために、原因をおおもとから絶たねばならない。それは、原子力の商業的利用を許さないことである。イタリアやドイツのように原発から撤退すれば、被害はなくなる。
 この反省がないかぎり、国民の政治にたいする信頼は得られないだろう。それなのに、政府は国民に背を向け、財界を慮って、原発の再開を県知事に要請しようとしている。県知事は猛反発している。

 1つ加えよう。昨日は、また悪いニュースが伝えられた。フランスで日本産の茶から放射能が検出された。また風評被害が広まるだろう。それを防ぐにはおおもとの原因を絶たねばならない。
 いま首相がなすべきことは、原発の再開を要請することではない。脱原発を宣言することである。そうして、一刻も早く辞任することである。
 首相は辞任を宣言して、いまや死に体になっているのに、いまだ政権に執着している。そうした権力の亡者になってしまった首相に対する怨嗟の声が、巷間に満ちみちている。

(前回 緊急現場報告 原発第2次災害への無策

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(2011.06.20)