コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
コメを投機マネーの餌食にした農水相の歴史的暴挙

 先週末に、鹿野道彦農水相はコメの先物取引を認可した。今後、大量の投機マネーがコメ市場に入り、米価は相場師が決めることになる。これは歴史的暴挙として日本農業の歴史に長く残るだろう。
 先々週末に、農水相は認可の意向を発表したが、それは、内部での綿密な検討の結果として発表したものではなく、突然の発表だった。それゆえ、農協や野党だけでなく、与党の中からも強い反対の声が上がった。
 こうした重要政策を、内部の検討なしに、突然発表することは、首相をはじめ、いまの内閣の得意技であるが、今度は実行までしてしまった。僅か1週間の検討の結果、認可してしまったのである。しかも、認可するかどうかの判断は25日までに行えばいいのだから、3週間以上の日にちを残しているのに、議論を封じるように急に実行した。
 その上、いまの農水相の余命は、せいぜい8月末までだから2か月を切っている。いまの内閣は死に体なのである。死に体の内閣の農水相が、このような重要な農政の変更を実行していいのだろうか。
 「飛ぶ鳥あとを濁さず」というが、さんざんに濁して飛び去る、というのだろうか。それとも、相場師たちへの置き土産ができたとか、官僚のために天下りの場をつくり「貸し」ができた、とでも思っているのだろうか。農業者の犠牲の上に、である。
 事の歴史的な重大さを、農政の最高責任者である農水相は分かっていないのではないか。そうだとすれば、日本農業にとって、これほど不幸なことはない。

 認可の理由は、「生産流通に対して、著しい支障を及ぼすおそれがあるかどうか・・・立証することが難しい・・・」というものである。だが、世界の、ことに穀物の先物市場では、価格は乱高下している。同じように、コメの先物取引を認めれば、米価は暴騰、暴落を繰り返すに違いない。
 米価がコメの生産と流通に重大な影響を及ぼすことは明らかである。したがって、米価の暴騰、暴落は生産と流通に、著しい支障を及ぼすことになる。
 だから、これは許可の理由にはならない。それどころか、不許可にする立派な理由になる。
 コメの生産と流通に支障をもたらせば、それは日本農業の根幹を揺るがすことになる。農水相は、農業には市場では計りきれない多面的価値がある、という哲学を捨てて、市場原理主義者になってしまったのだろうか。

 農水相は「あくまでも試験上場と、こういふうなことでございますので・・・」とも言っている。だが、これほど重大なことを試してみる、などという理由で認可していいものだろうか。生産と流通に著しい支障があるだけではない。農村では「相場には手を出すな」という古くからの言い伝えがある。相場に失敗して自殺する人さえ過去にはいた。
 試してみる、などということは、農業者を弄び、農村社会を混乱させる。

 農水相は「十分な取り引き量がないというふうなことは、・・・立証が難しい・・・」とも言っている。だから認可したのだという。農業者をはじめ、大勢の人が取引に参加すると考えているようだ。
 だが、農協は参加しない、といっている。だからといって、先物市場からの影響を絶てるわけではない。先物市場の米価と現物市場の米価は必ず連動する。連動しなければ、そこで相場師は「サヤトリ」をして、ひと儲けできる。だから、先物の米価が下がれば、現物の米価も必ず下がるのである。
 つまり、先物市場に参加しても参加しなくても、農業者は米価を通じて甚大な影響を受ける。これからは、農協と相場師との間で熾烈な闘いが行われる。この闘いには、あらゆる手練手管を使って、乗り切らねばならない。そしてコメを巨大な投機マネーが跋扈するマネーゲームの世界にしてはならない。


(前回 コメの先物でマネーゲームか


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(2011.07.04)