昔、カラオケで「北の漁場はよー 男の死に場所さー」と、北島三郎の演歌を粋がって歌ったことがあったが、その海で痛ましい事故が起きた。この厳寒、こともあろうに、小さな漁船が馬鹿でかい最新鋭の海上自衛隊・イージス艦にぶっつけられ、漁師親子が投げ出され、いぜん行方不明。「船底1枚下は地獄」は漁師稼業の過酷さをいうが、この衝突事故を「浦じまい」という儀式で、一応の区切りを付け、また漁に出る。漁師は海に出ての生業とはいえ、陸の農家とはまた違った厳しい生活環境をまざまざと見せ付けられる。
一方、防衛省を始めとした政府側の対応の拙さはどうしたものだろう。彼等の言い分を聞いていると、「自分の身を守る」ことに汲々としているように感じる。「2分前」ではなく「12分前」だったという情報を知りながら隠し、それを追求されると、大臣は「それを言わなかったのは、ことさら『良くない』とは言えない」とか、「あたご」の乗組員との接触を「現時点では接触していない。その前にしていたのはその通り。虚偽ではないかと言われると非常に答えは難しい」と、禅問答、いや、人を食ったような言い方はどうしたものか。
「良くない」とは「言えない」は、「良かった」ということだろうし、「虚偽」ではないかと追求されて、「答えは難しい」は、「虚偽」だと認めていることになるのでは?◇ここは会津魂の「ならぬことはならぬ」じゃないが、「良くないことは良くない」「虚偽は虚偽」と、日本男児ならきっぱり言うべき。それに比べ、この漁師親子は祭りには神輿を担ぎ、獲った魚を上野公園の野宿者支援団体に届けていたというが、これぞ地域に根ざし、弱気を助ける日本男児。
また彼ら親子は「いつか、でかい船を買いたい」と語っていたとも聞くが、その夢を海の藻屑にしては惜しい。イージス艦一隻が1千何百億円もするそうだが、税金をこんなものに使うより、野崎沖の漁師仲間、いや全国の漁師にそれこそ最新鋭の漁船を買って上げてはどうか。外麦に頼る小麦粉は3割も4割も上がり、バイオ燃料の余波で輸入飼料も高騰、食卓の危機が目前。ここは一次産業同志が頑張らなくちゃ、日本人の食べるものがなくなる。
故郷・新潟で米作りをしているタレントの大桃美代子さんもいう、「米、野菜、魚の三本柱」が日本人の食生活の原点だと(2/28付、朝日広告特集)。このことを気付かさせてくれた、漁師親子さん「ありがとう」…。