「あるのにナイ、ないのにアル」、不思議な国。これはデユラン・れい子さんの「一度も植民地になったことがない日本」(講談社)にでてくる自衛隊の話。ヨーロッパの人々には、日本には自衛隊という'軍隊組織'を持ちながら憲法で認められていないのは、理解に苦しむらしい。で、この国はタイトルのように、敗戦後もアメリカの温情(?)で植民地になることを逃れた。何でも、アジア諸国で植民地にならなかった国は、日本とタイだけだという。
しかし、不幸にも、二度に亘って他国に統治された国がある。戦前は日本に、戦後は中国に統治された台湾だ。台湾は今、総統選の真っ最中だが、現在でも「中国の一部」、いや「別々の国」だと、国際的にも台湾内でも揺れている。標題は、日本在住の台湾・台北生まれの評論家・金美齢さんの著書で、正しくは「戦後日本人の忘れもの」(ワック)と、「戦後」が前につく。
金美齢さんは、他に「日本ほど格差のない国はありません」など、少々違和感を感じるタイトルの本も出しているが、台湾の独立運動に半世紀もの間身を捧げてきただけに筋金入り。現代の日本人に対する視線は鋭く、発言は辛らつ。興味深いのは、この著書で、年輩の台湾人は、かっての日本人の印象を清潔 公正 誠実 勤勉 信頼 責任感 規律遵守と評価しているとの件。いやはや、面映い。「戦後日本人の忘れもの」とは、まさに正鵠を得たタイトル。
これに付け加えれば、もう一つ、忘れているものに「危機意識」があるように思う。これを思い出したのは、JA全中主催の「ごはん・お米とわたし」作文・図画コンクールで、内閣総理大臣賞を受けた福井県の小林朋史君(中1)の「新米を食べたい」という作文。実家が稲作農家なのに、新米がなかなか食べられない悩み(?)を訴えていたが、昔、農家は不作に備えて、新米は食べずに古米から食べていたと聞いてはいたが、今も実践しているのには驚く。
台湾は戦後、蒋介石の流れを汲む大陸の国民軍に統治されたが、彼らは先の日本人とは反対に、ルーズ 無責任 不公正 欺瞞的 金が万事と評価されているそうだ。でも、これはそっくり現代の日本人に当て嵌まるやもしれない。足元に食料危機が押し寄せているのに、大して危機感なし。金美齢さんに言わせれば、すっかり「平和ボケ」した日本人なのかも。精々、先の福井の農家の「危機意識」を持たなくちゃ、この国も日本人も滅びる…。