「日本人は貧しい。しかし高貴だ。世界でただ一つ、どうしても生き残って欲しい民族をあげるとしたら、それは日本人だ」。これは藤原正彦さんが「国家の品格」で紹介している、戦前駐日フランス大使を務めた詩人のポール・クローデルがあの戦争の帰趨のはっきっりした昭和18年にパリで言った言葉。
それから60数年、クローデルの心配をよそに日本民族はしぶとく生き残ってきた。クローデルのいう意味とは違うが、案外、日本人は世界の民族のなかで長く生き残るような気がする。5月連休明け上越新幹線で新潟へ行く。途中、埼玉・群馬の田んぼは麦が青々。越後湯沢を過ぎると、田植えの終わったばかりの満々と水を張った田んぼが延々とつづく。5月末、今度は関西へ。静岡近辺は絵に描いたような造型美の茶畠が見え、安城辺りからは黄色くなった麦畑や小さな水田が新幹線の傍まで迫る。耕作放棄地が取沙汰される昨今だが、これらの光景は先祖伝来の農地を営々と守ってきた証しだろう。
今、世界、とくにアジアやアフリカは食糧価格の高騰や米不足などで大混乱。このため、6月に入り世界食料サミットが開かれ、7月には北海道洞爺湖サミットで経済や環境問題とともに食糧問題も取り上げられる。そんな中「食料不足の国があるのに減反するのはもったいない」との町村官房長官の発言が飛び出し波紋を呼んでいる。「減反を見直すと米が1俵6000円に下がる」「生産調整が緩み、米価が大暴落する」などと、自民党や農水省は批判する。
また、農政見直しの中心人物の一人、自民党のある議員は「生産調整をやめると、米の援助に5000億円、米価下落対策に1兆円の追加予算が必要」と不快感を示す(6/3付、日本農業新聞「三面鏡」)、とあるが、これぐらいの予算で日本民族の命の糧が確保できるのなら、安いものではないだろうか。とかく、生産調整廃止は政府与党にとってタブー視されてきたが、この世界中の「食料ショック」を機に、減反見直しを含め、日本農業再生の青写真づくりを急いでもらいたいものだ。
さて、先の続きを言えば、京都を経由して滋賀に入る。田んぼはしっかり田植えが終わり、傍らで黄金色に染まった麦畑が広がる。滋賀は近江米・近江牛・近江茶で有名。いわば、日本農業の原点。ずっと、米・牛・茶を守って欲しいものだ。日本全国、「瑞穂の国」はまだまだ健在!この美しい水田を守っていけば、日本人は世界で一番最後まで生き残る民族だと思うのです。