韓国の冬はキムチ作りからはじまる。地域によって多少の差はあるものの、立冬が過ぎた頃から大雪までの約1ヶ月の間、韓国の家庭では、冬支度の第一番目として、春先まで食べられる分量のキムチ作りを行う。
この冬の間食べるキムチ作りのことを「キムジャン」という。そもそもキムチとは「野菜を塩水に漬ける」という意味の「沈菜」がその語源であり、キムジャンとは、「塩水に漬けて貯蔵する」という意味の「沈蔵」がその語源となる。
キムチという漬物も、それを冬の間食べる貯蔵法であるキムジャンも、1千年以上の歴史があるが、今日のような唐辛子の入った辛いキムチは、約300年前、日本から唐辛子が伝来されてからの味付けである。
今は、冬でも新鮮な野菜が豊富に出回っているし、食生活の変化や食品の加工技術の発達などもあり、昔よりは量が減ってはいるが、キムジャンには、普通のキムチでは味わえない独特な深みの味があるので、食に貪欲な韓国人にとって、キムジャンは今なお欠かすことのできない大事な年中行事の一つである。
冬先になると、多くの会社が、正規の賞与とは別途に、「キムジャンボーナス」を支給し、家計の負担を軽減させてくれている。それもそのはずで、冬の間食べる分量のキムチ作りには、それ相当の費用がかかる。
一概には言えないが、4人家族なら、白菜30株は漬けるだろうし、白菜キムチのほかに、大根・カブ・高菜などのキムチも漬ける。それらのメイン野菜のみならず、にんにく・生姜・唐辛子・ネギ・芹・芥子菜などの基本的な香味野菜に、塩辛類、牡蠣、鱈、太刀魚、イカなどの魚介類が薬味や具の材料として用いられるので、通常の食費でまかなえる金額ではない。
費用だけではなく、メイン野菜の塩漬けから、副材料の下こしらえ、そして、薬味や具を混ぜ合わせ、白菜などに詰めるまでの手間隙も大変であり、各家庭の主婦は、親戚や友人同士で手を貸し合いながら、キムジャンという大仕事をやりのける。
12月上旬が過ぎると、韓国のキムジャンシーズンは終りを迎え、後は年末年始を備えるが、今年の師走には、もう一つの大きな行事が控えている。5年に一度の大統領選挙である。日本とは違って韓国では平日を臨時休日にし、選挙日とするが、今回は19日に決まった。国民による直接選挙であり、選挙日現在満19歳以上が有権者となる。
韓国人は政治への関心が高く、歴代大統領選の投票率を確認してみると、前回が70.8%で一番低く、それ以外は全て80%を大幅に超える。
今回が17代目の大統領選となる。1948年、政府樹立以降この60年間、長期執権、独裁政治、軍事政権などを経て、ここ10数年、やっと民主主義が安定してきた。分断国家であるがゆえに、対北朝鮮政策が一番のイシューではあるが、自国の国益のみを追求せず、アジアそして世界の平和と共存を視野に入れる指導者が選ばれてほしい。素朴な言い方だが、尊敬できる大統領、自慢できる大統領を持ってみたい。しかし、確かに言えることは、いつの時代、どこの国であろう、国民のレベルを超える大統領は生まれない。
師走に入った東京で、そろそろ送られてくるはずの親からのキムチを待ちながら、大統領選の行方をも見守っている。