インターネットで「事故米」という言葉を検索していたら、ひょんなことから「舞踊」という言葉に行きつきました。「舞踊」という言葉は坪内逍遥と福地源一郎による造語だそうで、日本の伝統的なダンスである舞(まい)と踊(おどり)をくっつけた言葉だそうです。舞は歌や音楽に合わせてすり足で舞台を回り、踊は足を踏み鳴らしリズムに乗った手振り・身振りをするのだそうです。
なんだか競歩とマラソンの違いのようだなと感心しながら解説を読んでしましました。言葉には物事の本質を的確に表しているものもあれば、いったい何のことやら分からないものもあります。三笠フーズによる転売事件で有名になった「事故米」などは後者の方でしょう。お役人は捉えどころのない言葉を作り出す天才かもしれません。
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事故米の転売を引き起こした原因には業者のモラルの問題や農水省の検査体制の問題など改善すべき課題がたくさんあると思いますが、私は「事故米」という中途半端な名前が油断を生んだのではないかと思います。「事故米」というと「不運にも事故に遭ってしまったかわいそうなお米」みたいなイメージを受けます。そこまで同情的に考えないにしても「事故」とは一体何なのか、言葉を聞いただけではイメージできないのではないでしょうか。ある新聞では「汚染米」という言葉が使われていました。科学的に正しいかどうかは別にして、「食用にしてはいけないものだ」というメッセージが本能的に伝わる名前だと思いました。
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農薬の残留基準は十分な安全係数を織り込んであるので、基準値以上の農薬が残留していることが即、生命の危険につながるものではないことは承知しています。しかし、あくまできちんと安全性が評価され、農薬として登録されているものについて言えることなので注意が必要でしょう。一方で、カビ毒の一種であるアフラトキシンの発がん性は非常に高く、こちらは汚染米と呼ぶにふさわしいと思います。このアフラトキシンは調理では分解しないとされているので、私はこのカビのリスクの方をより心配しています。
もちろん、基準値以上の農薬が検出された米もカビが生えた米も食用に供されるべきではないことは言うまでもありません。おかきに加工されたものを食べ、給食でご飯として食べた子供がいると聞くと、本当にここは日本なのかと暗澹たる気持ちになります。
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監督官庁である農林水産省もそろそろ自らの名前を変えるべき時が来ているのかもしれません。組織の名前には、その組織の使命や意気込みが表れていなければならないと思いますが、今の名前には省庁としての使命感があまり感じられません。あるいは時代のニーズとずれてきているのかもしれません。産業振興はもちろん重要ですが、日本の食糧問題をどうするのかを真剣に考えるならば、その名前も違ったものになるはずです。
「名は体を表す」とはよく言ったものです。トップの方には今後の組織の方向性を明確に示していただき、それを明確に表すような名前を考えることから始めていただきたいと切に願う次第です。