私の娘がよちよち歩きだった頃もデパートの屋上はまだ活気がありました。妻が買い物をしている間、娘をここで遊ばせていると、退屈な買い物には付き合わなくていい上、妻からは感謝されるのでずいぶんと助かりました。
デパートという空間は子供の面倒を見るにはうってつけでした。娘がトイレに行きたいと言えばすぐに連れて行けましたし、ジャングルジムに飽きたらおもちゃ売り場や本屋さんで気を紛らせていれば良かったのです。
しかし、娘が長じるにつれて家族でデパートに行く回数は次第に減っていきました。何よりも娘がデパートに興味を示さなくなったのです。デパートの品ぞろえは大人向けで保守的なものが多いと思います。本当に良いものを揃えるとこうなるのでしょうが、若い人たちの好みには合いませんし、第一娘のお小遣いで買える範囲を超えています。デパートは娘がちまちまと買い物を楽しめる場所ではなかったのです。
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代わって家族で買い物に行くようになったのは、郊外型のショッピングモールです。
若者向けの衣料品やアクセサリーは豊富ですし、娘のお小遣いで手の届く値段で買いものができます。郊外にあるので店舗面積が広く、インテリアや日用品、スポーツ用品店やペットショップ、本屋などもあり、すべての店舗の商品を合わせると品ぞろえはデパートを大きく凌駕しています。私は買い物に付き合うのは勘弁してもらって、カフェでのんびり一人の時間を楽しんでいます。
人が集まるには理由があります。それぞれのライフサイクルの中で集まる場所は変わっても、普遍的なのはそこに来れば楽しい経験ができるからなのです。欲しかったものが手に入るということだけではなく、その場所で経験する様々な楽しい出来事のひとつひとつが人を引き寄せます。
子供のころデパートで何を買ってもらったかは忘れても、屋上から見えた風景は今でも鮮明に覚えています。今の世の中はあまりにもモノにこだわり過ぎているような気がします。