がん患者さんの治療と生活をつなぐ「キャンサーリボンズ」がいよいよ発足した。長寿時代というのはなかなか大変だなと思うのは、日本男性の2人に1人、女性の3人に1人が一生涯のうちにがんにかかるというデーターが、発表されているからである。がんはすべての人にとって他人事ではなくなってしまった。誰もが支えられる側にも、支える側にもなるのが現状というものである。
すでに、わたくしは「一、二の三で温泉に入る会」の賛助会員になっていた。この会は2002年に俵萌子さんが、乳がんの手術を受けた女性たちと一緒に立ち上げた会である。現在は乳房温存型の手術が手広く行われるようになっているが、やはり乳がんは女性しかかからないがんと言うこともあってだろう、医学の進歩の中で取り残されていた感があり、転移を恐れて、まるで骨からそぎ落とすような手術が行われていた。
かって婦人雑誌の編集長をしていた素敵な先輩が乳がんにかかり、それこそ鮭の半身をそぎ落とすような無惨な手術を受けた。彼女は豊胸の持ち主だったので、手術後バランスが崩れてまっすぐに歩けなくなっていた。そんなえぐり方をしたのに3年後に脳に転移、手術ができないままに半年後に亡くなられた。見舞いに行ったわたくしに「こんなことになるならあんな辛い手術を受けることなかった。やっぱり乳がんの手術は女医さんでないと」とむせび泣いたことを、昨日のことのように思い出す。
乳房をえぐり取るような手術を受けた女性たちは人目を気にして、ゆったりと温泉にに浸ることをしなくなってしまった。「みんなが一緒なら怖くはない」と同じ悩みを持つ女性たちの願いを受けとめ、転移の恐怖を乗り越えて実現することに全力を挙げた俵萌子さんが立ち上げたのが、「一、二の三で温泉に入る会」だった。初めて温泉に出かけた日の夜、貸し切りの浴場の中で、子供のように歓声を上げながら、一斉に露天風呂に飛び込んだという。
わたくしが賛助会員になったのは、支えたり、支えられたりの輪が広がれば広がるほど、死の恐怖から解放されるとの実感が強かったからである。わたくしは30年来免疫障害の膠原病の類縁シェーグレン症候群と付き合ってきた。一口に言ってしまうと涙液や唾液や体液などが自分で作れなくなる、言うなれば身体が砂漠化していく厄介な病気である。「シェーグレン症候群友の会」が金沢病院で作られて以来、わたくしは時間の許す限り集いに参加している。なぜかわたくしはこの会の“憧れの星”で、「吉武さんが元気でいてくれるとわたくしたちも元気になる」と言われ、その気になってへたらずに仕事を続けている。
膠原病も圧倒的に女性が多い。やっぱり男中心の医学の世界からつまはじきされているとの感を抱いているからだろうか、女同士の輪を広げながら「わたくしひとりじゃない。みんなもほらがんばってるじゃない」と、死の恐怖から解放された人間特有の明るさに充ち満ちている。そんなことで俵さんが乳がんの患者さんの会を立ち上げたとき、ひとりでも手をつなぐ人間が増えた方が生命力が培われるとの思いで、賛助会員になったのである。
スタートしたときは会員は400人だったが、転移、再発で50人の方が亡くなり、新しい人たちが参加して今は380人。乳がんという枠をはずしてがん全般に広げた。そのときを待っていたように、このわたくしめが大腸がんの手術を受けて、なんと正会員になってしまったのである。驚いたことに70代は女5人に1人、男性は3人に1人が大腸がん。80代になると男女共々3人に1人が大腸がん。先のデータも多分圧倒的に多いのが、大腸がんではないだろうか。
さて、「キャンサーリボンズ」は患者が孤立化して生きるのではなく、がんの経験者,医、食、美、美容、運動など生活の場面を支える専門家やさまざまな立場の人が集まり、患者が自分らしく、少しでも心地よい生活に役立つ情報やケアを中心に思い合い、支え合う輪を広げることを目的として発足したのである。
この会の中心になっている「朝日エル」(03―5565―4911)は女ばかりの広告会社。利益を度外視してこれまでもボランティア運動をまとめたペパーミントウエーブを設立、幅広いボランティア活動をつづけてきている。だから声がかかると、わたくしも損得抜きで、仲間に入れてもらっているのだ。
だけどやっぱり女の発想は素晴らしい。病みながら老いる時代になった今だからこそ患者本人だけではなく、家族もひっくるめて支えられ、支えると言う女の輪を広げていくという発想は、やはり命をはぐくむことに喜ばしさを抱く女性だからこその発想ではないだろうか。
JAの女性のみなさんも「キャンサーリボンズ」のお仲間になってくださいな。シンボルマークには、「あなたが大切」という花言葉を持つアイリスをリボンに使っているんですよ。