わたくしはこの30年間、病気のデパートのオーナーとして門戸張ってきました。人生50年時代なら元気で生きてころりと死ぬことは可能だったけど、人生が倍伸びた100年時代は病みながら老いる時代になってしまったのです。病気と病人とは違う。だからわたくしの病気のデパートの社是は「病気はすれども病人にはならない」。
わたくしは部屋が3つある右肺は全部切除。左肺の3分の2は肺気腫。今年の衆議院選挙で代表として全力あげたら、ほんの僅か残った健康な肺にカリニ菌が繁殖。かつてはHIV患者はほとんどカリニ肺炎でなくなっていたのですが、医学の進歩でカリニ菌駆除のでかい錠剤が出来たんですよ。普通の錠剤の5倍近くある錠剤を朝昼晩15錠。おかげで命は取り留めましたが、酸素ボンベのお世話になることになってしまいました。その上に大腸がん。ねっ、立派な病気のデパートのオーナーでしょ。
社是を実現できるようにオーナーは、4ヵ条を掲げているのです。
まず1ヵ条はおしゃれを徹底的に楽しむこと。あのね、後期高齢者になった今、しみじみ思うのは、おしゃれの旬の時代は70代から。若さが沈潜したおかげで赤やショッキング・ピンクと言った鮮やかな色彩がばっちり。それからふりふりなど、若いときには過剰だったデザインの洋服がぴったし似合うようになるんですよ。
わたくしね、携帯用の酸素ボンベの事務的な紺の袋にきれいな洋服を着せて、アクセサリー化しちゃっているんです。真っ赤なパンツスーツ着てね、中にふりふりいっぱいの黒のブラウス。素顔に近いメーキャップでね、背筋伸ばして大股で歩いているとあな不思議。携帯用の酸素ボンベのビニールの管を鼻に入れていることに気がつかなくてね。
「輝子さん若返ってきれい」なんて声が大向こうからかかってくるんですよ。
2ヵ条目はハードルの設定を高くする。わたくしね、人にのせられると豚が木に登るみたいになっちゃうの。63歳から俳句を、69歳で歌手デビュー、73歳からミュージックベルを始めて今じゃコンサートに出演しているの。喜寿の祝いに絵本作家としてデビュー、ついでに筆禅道という書道を始めて来年の3月には、生徒さんたちの展覧会に出品するの。出品作は「無心」。
何でも稽古しているとね「わたくしってまんざらじゃないわ」って頭撫でたくなっちゃう。面白いものね、自己肯定が出来ると他人も肯定できる。気がついたら人持ちになっているのよ。
第3ヵ条は医師と信頼関係を結ぶ。
第4ヵ条は人に役立つ場に進んで出て行く。人は人に支えられて生きているんだなと実感すると、生きることに喜びがわき出てくるんですよ。この4ヵ条守って30年。おかげでわたくし、病気している人の希望の星になっちゃっているんですよ。