免疫力が高まるからって笑うことは大いに進められている。でも泣くことって、精神の浄化に役だって感性のみずみずしさを取り戻すってことは、あまり語られていないのではないかしら。
人生百年時代はよき人たちの死を見送りながら生き続けなくてはならない。怖いのは、死に慣れてしまって、涙ひとつこぼさなくなると精神がびっくりするほど老化してしまう。
泣くことの最大の効果は、精神の老化を防止すること。
何度も書いているがわたくしはこの30年病気のデパートのオーナをもって任じてきた。5年前に大腸がんの手術を行った。わたくしはせいぜい2レベルぐらいだと受け止めていた。病理検査は2週間ぐらいかかる。主治医の志田部長は心温かき人間で1日3回一人でふらりと患者の容体を見て回る。
手術後はまことに心細い。志田部長の顔を見ると、見捨てられていないとの安堵感で思わず「わーいわーい」とまた来てねの思いを込めて指切りげんまんをしてしまう。
◇ ◇
2週間後、病理検査の報告に来られた。
大腸のがんの部分を切り取ったとき、リンパ節を30個近く切り取ったが、その中の5つくらいに転移していたのだとか。遠隔転移ではなく切り取った中のリンパ節の転移なので、正確に言えばその時のわたくしはがん細胞ゼロ状態。
だから志田部長も、予後治療として抗がん剤を使う必要はない。神経質な人はレベル1でも予後治療を受ける人も多いと言われたが、体力温存を選んで予後治療はなし。その代り命は志田先生に預けて、きちんと検査を続けていくと、またまた指切りげんまんをした。
たとえ切り取ってたなかのリンパ節の転移であっても、転移があったということはレベルは3A。呼吸器障害のあるわたくしの肺に負担がかからないように、通常は5時間はかかるのに2時間40分で終えてくださったその努力に感謝していたわたくしは、にっこり笑って先生を送り出したが、1人になった途端、人間の努力の甲斐のなさに泣きに泣きぬいた。体中の涙を絞りつくすほど泣きつくしたあとすとんと眠りの世界におちこんでいった。翌朝、これまでにないすがすがしい思いで目覚めた。ゴウゴウと泣いたおかげで、心の中にどろりとたまっていたねたみや嫉みや恨みの一切が洗い流されていたからである。
そのとき改めて泣くことの効用を悟ったのだった。
高齢者になれば誰もが人生の重荷がずっしりとかかっている。それなのに「痛いの、苦しいの、悔しいの」と愚痴めいたことばかりをばらまいていたら、みんなが敬遠して人間貧乏になってしまう。他人の人生の重荷をより重くしないためには、にこにこづきあいが第一。そのためにはゴウゴウと泣く習慣を身につけなくては。
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わたくしもだんだん泣く習慣を忘れてきているので真夜中、闇に向かって「なぜ私ばかりがこんなに病気をするのよ」「どうしてこんなに生きにくいのよ」「なぜいい人が早く死んでいくのよ」とかき口説いていくうちに感情が高ぶって、いつの間にかゴウゴウと声を放って泣いている。泣きつくすとすとんと夢の世界に。翌日はねたみや嫉みや恨みの一切が洗い流されて、まことにすがすがしい感性がよみがえっている。人の前では絶対に愚痴ったり、泣いたりはしない。逆に人を元気づけることに全力を傾ける。
この一事を貫き通していくためには、ゴウゴウと泣く習慣を身につけなくては。
ねえJAのみなさま、笑うことは免疫性を高めるけれど、泣くってことは感情の老化防止。「あの人に会うと元気づけられる」とみんなにニコニコ顔をプレゼントするためにも、ゴウゴウと泣く習慣を身につけましょうよ。