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【田老町漁協(JFたろう)理事】
高屋敷 登 さん

 東日本大震災から3カ月経った6月中ごろ、津波被害のあった岩手県宮古市田老町を訪ねた。震災前、住宅が立ち並んでいた町は跡形もなく流されて、ただひたすら更地が広がっていた。高屋敷さんは「復興なんてまるで見えない」と怒りをぶつけた。

 「漁業は再開したい。しかし、船も港も施設も何もない。震災直後から何も変わってない。まだまだ復興なんて考えられない」という高屋敷さん。3カ月経っても復興の兆しはまるで見えないと訴えるが、そんな現場の声を無視するかのように政府は“復興”へ向けて動き出している。「企業を入れて水産復興特区をつくろうとか、陸に打ち上げられた船をモニュメントとして残そうとか、現場の人間の気持ちを完全に無視して話が進んでいる」と異を唱えた。
 6月下旬にようやく損壊したワカメの養殖台の撤去、修復作業が始まった。しかし7月末から8月にかけて種付けをしなければ、来春の収穫はできず、収入は得られない。がれきの撤去作業などでかろうじて得られている収入は、いつなくなるかわからない。早期に生産基盤を復旧しなければ、漁業経営も生活もままならない。「どんな時も頭の中は、明日はどうなるんだろうっていう不安でいっぱいだ」と苦しい表情で語った。

【特集】地域と命と暮らしを守るために   ルポ・岩手県―今、動き出さなければ

(2011.07.25)