「元気に歩いて90歳」目標
◆訪問看護から再出発
愛知県厚生連足助病院には、初めの赴任先として大学卒業後3年間、世話になりました。その時は臨床医として医療技術習得に専念していました。当時も訪問診療と同様の往診がありましたが、嫌々ながら出かけていた記憶があります。
その後、大学へ帰局。老人医療、基礎研究、消化器疾患の臨床などを経てさらに2年間の米国留学などの後、恩師の教授の退官に合わせ平成8年に足助病院へ再度奉職しました。
その時、前院長が訪問看護ステーションを開設、その手伝いをしたことが、現在の私の医療に対する考え方の基礎になりました。
◆連携とIT化進め
在宅療養をしている患者を支えるのは医師、看護師、薬剤師、理学療養士など医療関係者だけではありません。ケアマネージャー、ヘルパー、通所介護(デイサービス)などの福祉・介護関係の人々が主体です。これらの人々の連携が重要で、連携の基礎は患者の情報を共有することが効率的であり、IT(電子化)化した共有カルテの構築を始めました。 当時の東加茂郡であった3町1村の行政、社協の担当者が一堂に会して議論したことを昨日のことのように思い出します。この場が、その後の進むべき道を決定づけたといっても過言ではありません。その後、ITを利用し在宅医療における画像・音声・生体情報の双方向通信、TV電話と自動血圧計・ITによる保健事業などに取り組んできました。
地域で情報を一番多く持つ病院が、患者情報を提供し易くするために電子カルテを導入し、04年から地域の診療所医師、ケアマネージャー、ヘルパーに対する患者のカルテ情報を開示する地域医療連携システムを運用してきました。
健康ネットの研究会
09年から厚生労働省の補助事業として、Web型電子カルテを活用した地域診療所との医療情報共有活用事業が始まり、地域診療所の医師との連携がより密になりました。診療情報を共有するためには、利用する人々の相互信頼が必須であり、その信頼の構築には日常的なコミュニケーションが重要です。
そこで10年3月から「三河中山間地域で安心して暮らし続けるための健康ネットワーク研究会」を設立しました。会員は住民、保健・医療・福祉・介護サービス提供者、行政、各種団体で、人と人とのヒューマンネットワークづくりを進めながら、個々の健康意識、必要なサービス(機能)などについての議論を定期的(2カ月に1回)に始めました。
その中で、経産省の「平成22年度医療・介護等関連分野における規制改革・産業創出調査研究事業」に私たちが提案した「中山間地域における高齢者向け『いきいき生活支援』の事業化PLR(Personal Life Record)と、複合輸送を核とした医療・介護周辺サービス」が採択され、計画していた調査研究が大きく前進しました。調査で明らかになったことは次のようなことです。
[1]高齢者の独居および老夫婦だけの世帯が、地区によっては50%を占める地区も。
[2]男性では85歳以上でも50%以上が自家用車を運転。
[3]日常生活で困っているのは、イノシシなどの獣害が第1位、買物や医療機関受診がこれに続く。
[4]公共交通機関は、「バス停が遠い。行けない」などの理由で利用できない住民が多い。 そこで通院患者の中から希望者に登録していただき、配食、通院輸送サービスを3カ月実験しました。ただ、事業として成り立つのは地域の業者と提携した配食サービスで、患者の希望通り運行するデマンド方式のタクシーは大赤字でした。
そこで会員と車座の討議を重ね、平成25年正月からは、会員がグループを作り、タクシーの割り勘乗車を実行しています。これを成り立たせるには[1]病院側は予約診察日の便宜を図る[2]患者はお互いに融通しあう[3]タクシー業者の協力、が必要です。つまり、患者の積極的な参加・協力です。
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新しい足助病院
◆住民主体の病院運営
このように、地域住民の生活に目を向けた活動を医療機関が中心に行うことの意義として、[1]中山間地域では医療機関が最も多くの住民が集まる場所である[2]外出目的のいちばんに医療機関受診が挙げられ、足の確保に対するニーズが高い[3]地域での医療機関の信頼度は高く、事業への住民の協力が得やすい、などが挙げられます。
地域住民が多く集まる病院こそ、地域コミュニティーの中心であるべきで、「開かれた病院」が目指す方向です。
新しく病院が改築されました。地域住民が集まるサロンを用意、運用は住民主体を目指します。また、中山間地域に住んでいても救急医療の場面で安心できるメディカカードの導入などを試験中です。元気に歩いて90歳、をスローガンに地域の健康づくりを進めたいと思っています。
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訪問診療の風景
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