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【JA香川中央会、各県連合会前代表監事(香川県)】
遠山 建治 氏

 「農協運動の仲間たちが贈る 第35回農協人文化賞」一般文化部門受賞。
 受賞者のこれまでのあゆみを紹介する。

農村永続の基本は家族営農

◆“田園詩人”に憧れて

 私は少年時代から宮澤賢治、ヘシオドス、陶淵明、ウェルギリウスなど古今東西の田園詩人に憧れ、父親に「詩を作るより田を作れ」と諭されながらも「詩を作りつつ田を作る」将来を夢みていました。そんな少年の苦手といえば、簿記算盤に人づきあいでした。
 しかし人生は皮肉なもので、補欠職員としてJAへ入組。対人と経理が日課となり、さらにはヒトで平等、カネで公正の協同組合理念に魅せられ、地域で活動し地域に育まれて約50年間、JA人生を過ごしてまいりました。この間、JAは次々と統合と合併を重ねて、現在の県単一規模に至りました。私の仕事も3名の職員で100人余の組合員に対していた支所から職員3000余名で14万人の組合員に対するマンモス体相手となりました。

◆大型化の行方が心配

JA香川県ビル 合併や統合のメリットは、もちろん、ヒトとモノと事業の結集による効率性の追求と安全性の確保にありますが、デメリットとしては、地域密着が緩み弱まり、意思疎通や伝達の不徹底や、不統一が起こり、また地区の独自色が薄れる等があげられます。組織統合の路線を歩んだ半世紀間、私の心配ごとは常に、メリットが発揮されているか、デメリットが抑止出来ているかの2点でありました。
 しかし、その2点からみると、いつまでたってもまだまだ不十分の繰返しでした。あえて良とする点をあげれば、全国最大級の資金の運用が効率的かつ安全になされ、信連も包括すると全国最高の効果が発揮できたことです。反面、意見反映や意思疎通のパイプが詰まったり、職員不祥事が頻発したり、経済事業の集約が不充分等、この克服に全役職員が意識統一して対応しなければ凍死する恐れもある訳です。

(写真)
JA香川県ビル

◆地域密着と総合性が強み

 この解決にむけて、大規模だからこその、合議体や広報・IT(情報技術)活用等の創意工夫も必要だと思います。JAの強みは、規模の大小に拘らず、地域密着と事業の総合性だと確信しています。 まず、地域密着については、役職員の足でタテ・ヨコに拡大すべきと申しています。タテとは組合員や家族や住民の年齢帯のこと。男性も女性も含めて高齢者・中堅・次世代まであらゆる年齢層にJA活動に参画していただくこと。ヨコとは、専業正組合員を中心に兼業者から准組合員へ、さらに地域内住民世帯へさらに地域内法人へとJAファン作りをしていくこと。協同組合運動とは、やはり人と人との出合い、ふれあい、つきあい、助けあいへと深まっていくものなのですから。
専業組合員の野菜ハウスの中で この地域密着度は、経営規模に反比例するとさえいわれますが、合併によって施設や事業所等拠点を統合して減らし、職員数を合理化して減らしても、渉外要員だけは確保すべきだと思います。また、大規模な催事等の生活文化活動は地域密着に有効で効果的に実施すべきと考えます。
 次にJAの強み、事業の総合性について、近頃その発揮が困難になってきたようです。コンプライアンス最優先のため、かつての“何デモ推進”や“二刀三刀流”が許されなくなった上に、部門別独立採算性と経営区分が厳格になり、事業間支援や補填がきかなくなっています。
 だからといって、全職員への協同組合教育や全事業の基礎研修、総合相談対応能力の向上研修は決して怠ってはならないと思います。JAだからこそ可能なのですから。
 最後に、農業の文化性とでも申しあげたいことについて一言。カルチャーの語源は“耕す”に由来し、文化の語源は、「天象に同化する」の意味。自然と人が一体になる意味とも言えましょう。しかるに、田園詩人の星寛治氏の言葉を借りると、現代文化は「土ばなれをつよめることが文化により近づくことだと思った倒錯」との面が伺われます。現代の文化には、もっと土の香り農の香りが欲しく思われます。この土の香りを発信できるのは農家の人々以外にはないでしょう。農村文化をもっとIT等を介して発信したいものです。

(写真)
専業組合員の野菜ハウスの中で

◆文化の香りある農業を

 一方、現代の農業には、文化の香りが欲しく思われます。現代農業は、産業としての経済効率や所得面からの議論、また担い手不足や遊休荒廃田対策としての集落営農や法人営農はたまた企業営農にまで及ぶ議論、また安全消費面からの有機農業や産直の自給率の議論等が活発でありますが、農村文化の基礎であり農村永続の基である家族営農の重要性やこれを育成保護する議論はほとんど聞かれません。応急策としての集落営農はもちろん急がれるでしょう。しかし、これは農家一代の話です。もっと重要なのは2代、3代に及ぶ家族営農であり専業兼業を問わず大切です。 農業に文化の香りを込められるのは、農家の家庭そのものであると考えます。農業の多面的機能に集落機能の保持が挙げられますが、その基は農家家庭の保持です。これからもっと家族営農を大々的に議論したいと思います。

 

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