農水省の食料・農業・農村政策審議会企画部会に設置されている地球環境小委員会(座長:林良博東京大学大学院農学生命科学研究科教授)は3月3日第5回委員会を開き、検討のテーマである「地球温暖化防止に貢献する農地土壌の役割について」の農水省のとりまとめ案を了承した。近く開かれる企画部会に報告する。
地球温暖化防止について、今年から京都議定書の第1約束期間が始まったが、国際的には既に第1約束期間後の枠組みについての議論が開始されている。来年には次期枠組みについて世界で合意するスケジュールのため、わが国も早急に国内で議論の方向性を定め、国際交渉に日本の考え方を反映させる必要がある。交渉は内閣府が主導し外務、環境、農水の関連4省庁が行うが、農水省は農地土壌の役割を盛り込む考え。
農水省は、温暖化防止について国際的にはほとんど考慮されていない農地土壌の役割について、次期交渉で訴えて行けるかどうか、訴えるためには何をやるべきかについて方針を固めるため、昨年秋に地球環境小委員会を設置し、検討をすすめてきたもの。
第1約束期間での削減目標の手段選択の際には、農地土壌における炭素収支に関する知見が不十分だったため、削減目標に取り入れなかった。また、期中での条件変更はできないため、次期約束期間に入れたいとしたもの。
白須事務次官は「本日のとりまとめは、国際交渉に臨むに当たり出発点となる重要な意義を持つ。地球環境問題に農水省を挙げて取り組む」と挨拶した。
◆炭素量、営農活動で一定レベル維持
<とりまとめ要旨>
農地土壌には家畜排せつ物や稲わら、食品産業等から排せつされる有機物が絶えず供給され、これらから変化した二酸化炭素が土中に蓄積される。農地土壌による温室効果ガスの吸収(蓄積)を意味する。具体的手法は、
▽堆肥等の有機物の投入量を増加させ、土壌への炭素の投入を増やす、
▽不耕起栽培や省耕起栽培により、土壌からの炭素の排出を抑制する、
▽土壌改良資材(木炭等)の施用により、土壌への炭素の貯留を増加させる、
▽多毛作の促進による緑肥等の有機物の投入の増加により、炭素の投入を増加させるなど。
農水省の試算では、わが国の農地土壌は表層30cmに水田で1.9億トン、畑で1.6億トン、樹園地で0.3億トン、合計約3.8億トンの炭素を貯留している。
農地土壌が貯留している炭素は、営農活動によって増減することから、適切な土壌管理を通じて土壌中の炭素量を一定のレベルに維持することが、地球温暖化の防止に大きな役割を果たす。
農地土壌は作物生産機能以外にも炭素の貯留機能や有機物の分解を通じた物質循環機能、生物多様性保全機能、環境保全の重要な機能を有している。今後、炭素貯留機能を農地土壌が有する公益的機能として位置づけるとともに、国民合意のもと、公益的機能の向上に高い効果が認められる営農活動を通じて、将来にわたって適切に保全していくことが必要である。
温室効果ガスの排出削減・吸収増加に資する農地管理手段は、農業者の協力をいかにして得るかが重要となる。掛かり増し労働を農業者にかけることから、地球温暖化防止に貢献する農業を実現していくために、農業者が活動に取り組むことが農業者の利益となるよう、方向付けを行うことも考えられる。