基調報告では、上智大学総合人間学部奈須正裕教授が「教育の観点から提言する農業体験の効果」として、問題解決学習の重要性について話した。
「食農」についての知識や体験は必要だが、奈須教授は、子どもたちが将来、社会や時代の変化に耐えて行けるような食育を身につけさせるためには、問題を子どもたち自身に解決させるように仕向けることが必要だとし、”肉まん”作りを例として挙げた。子どもたちが小麦粉をねって「あん」を詰め、蒸しあげたがペチャンコになった。教師がまた来週作ろうと提案したら、子どもたちはその間に「発酵」について学習し、次回はみごとに肉まんができた、という奈須教授は、「本物をめざすから学びも本物」になると指摘した。
研究報告は、農業ジャーナリストの榊田みどりさんが「農業体験学習全国定着化推進ワーキングの研究報告」として、3地区の食育活動を紹介した。
JA山形おきたま青年部(山形県)は東京都内の小学校4校を対象に出前稲作体験活動を行った。学校の花壇を改良して田んぼを作り、農作業を通じて環境・生態系の学習にも発展した。これを契機に、子どもたちの発案で現地を訪問し、農業体験をした。
JAかみつが日光キッズクラブ(栃木県)は、都市の子どもたちを招き、畝作り、種まき、間引き等農業の学習を展開している。地域作目をテーマにすることで、地産地消と直売所の利用を促すとともに、食の安全・添加物の学習も行った。
JA菊池青壮年部(熊本県)は、地域の後継者を育てる観点から地元の中学生を対象にファームステイを平成5年から継続して実施。過去13回で921名の生徒を受け入れた。ファームステイを経験して就農したJA青年部部員が10名を超え、現在は子どもを受け入れるホスト農家として活躍している。
パネルディスカッションのテーマは「子どもたちの農業体験を進めるために何をするべきか」。パネリストは現地側としてJA山形おきたま青年部高橋勝副委員長、JA菊池青壮年部霍田嵩前委員長。受け入れ校側として徳島県阿波市立市場小学校藤本勇二教諭と奈須教授の4氏、コーディネーターは榊田みどりさん。体験学習の継続、学校とJAとの連携、今後の課題等について話し合った。
◆学校側に受け入れシステム期待
今後の課題として、藤本氏は、子どもに「5年生になったら、学校で米作りをするのだ」というイメージを植え付けることが大切。農業体験をするという校風を作って行きたいと述べた。高橋氏は、JA山形おきたまの出前稲作体験学習では受け入れ校探しのため100校にダイレクトメールを打った。反応があったのは、名物校長などがいるところ。その人が転勤すれば途絶える。学校側に受け入れシステムができれば継続できる、と指摘した。
奈須氏は、米作りを通して学ぶこと、気づくことは小学生と中学生で違う。小学生は農家が持っている知恵の価値を見定め、中学生は働くことに関心を持つ。農業体験ならではの価値を学ばせることに大きな意義ある、と話した。霍田氏は、地道に無理なく長続きさせて行きたい。目的意識を持って根気よくやるべき、と述べた。
榊田さんは「今後は女性部との連携も期待したい」と締めくくった。