JA全中は4月8日、WTO農業交渉対策全国代表者集会を東京都内で開いた。JA関係者約700人が参加した。
WTO農業交渉は2月にファルコナー農業交渉議長が提示したモダリティ案改訂版をもとに議論が行われている。
改訂版では農産物全体に対して平均54%の関税削減を提示、また、重要品目の数は4〜6%とし、日本をはじめG10が求めている10%とは開きがあり不十分な内容だ。上限関税の導入には触れていないものの、関税削減後も100%以上の高関税品目が残る場合には、追加的な関税割当拡大を義務づけるという厳しい内容も提案されており、日本としては受け入れられない案となっている。
しかし、最近、米国ブッシュ大統領が「ラウンド前進のため首脳レベルが厳しい判断を行う時期にきた」と発言しているほか、ブラジルのルーラ大統領も「ブラジルとEUは合意に向けて貢献できる」、豪州のラッド首相も「交渉の前向きな成果は世界経済に自信をもたらす」などと発言していることから、JA全中の宮田勇会長は「交渉が急速に進展していきかねずまさしく予断を許さない状況。いよいよ正念場に入っている。わが国の主張が実現するよう国民の理解と支持を得ながら、全力をあげた運動展開が必要となっている」とあいさつで危機感をにじませた。
ただ、EU農業団体を含め世界54か国の農業団体は『悪い合意ならしないほうがよい』という意志で結集していることを改めて紹介し、今後さらに世界の農業者と連携を強化していくことを強調、「食と農はすべての人々の生存に直結した根本的な課題。食料輸入国の食料主権が可能となるよう公平で公正な農産物貿易ルールを確立することは絶対に必要だ。われわれの主張が実現するまで全力をあげて取り組む」と話した。
◆閣僚会合は5月中下旬か
集会では自民党農林水産物貿易調査会の谷津義男会長がファルコナー議長との会談内容などをあいさつのなかで紹介した。
それによると議長は4月25日前後に第2次改訂版を提示する意向を示し閣僚会合は5月中下旬に開かれる見込みだという。今後、交渉は非農産品(NAMA)、サービス、ルールなどの他分野と並行的な議論が行われる見通しだが、谷津会長は並行的議論に移る前に農業分野は「しっかりとコンクリートしておくべきだ」と主張し、とくに上限関税については交渉全体のなかで再び浮上することがないように合意しておくべきことを強調した。これに対して議長は第2次改訂版にも上限関税導入について書き込む意向を示さず、これが閣僚会議で議論とならないような対応することも表明したという。
また、重要品目の数について谷津会長はタリフライン数が日本は1336であるのに対して、EUは2200、米国は1700と差があることから、一律の基準値で決めることの不公平さを主張したことに対して、その問題は「十分に考えている」との主旨の発言があったことにも触れた。
そのほかフランスのサルコジ大統領が「不利なる合意なら拒否する」ことを表明していることや、ドイツも現在の交渉内容では受け入れられないことを農業大臣が強調し、日本と連携することを表明したという。
西川公也同調査会事務局長は関税割当拡大などに適用する国内消費量基準について指摘、日本の場合、米の消費量がUR合意時点より減少しており、「前と同じ基準、ではのめない」。生産調整に苦労して取り組んでいることからも、現行77万トンの「ミニマム・アクセス米を増やすわけにはいかない」として国会決議も視野に政府を後押ししていく考えを示した。
また、保利耕輔自民党総合農政調査会長は、世界的に食料事情がひっ迫していることを重視すべきだとして、自給率向上や食料安全保障について「(今年7月の)洞爺湖サミットで日本の考えを主張するように政府に伝えていきたい」との意向を示した。
集会では「上限関税の絶対阻止」、「十分な数の重要品目の確保」、「重要品目の柔軟性の確保」など、食料輸入国の切実で正当な要求が確実に反映される必要があることなどを訴えた特別決議を採択した。
決意表明
JA上川中央 新井光雄代表理事組合長
合意内容によっては地域農業の崩壊につながりかねないと強い懸念を持っている。世界的な食料事情は大きく様変わりし中長期的なひっ迫が確実視されているなかで、食料輸出国が規制に踏み切っている。これまでのように経済力だけで世界の食料を買い漁るということが許される状況にはない。
食料を市場経済による自由貿易がもっとも望ましいとするのであるならば、WTOそのものの理念が問われているのではないか。われわれ農業者、JAは安心・安全で良質な食料生産を追求し、担い手の確保にも取り組んでおり、その着実な実践のためにも適切な国境措置、確実な担保が必要だ。
日本政府は今こそわが国の基本スタンスとして、食料の安全保障の必要性と農業分野における自主的な貿易ルールについて各国に訴えてほしい。WTO農業交渉で国民のふるさとでもある農村、地域農業の崩壊につながることのないよう最大限の力の発揮を強く求める。
JA全青協 坂元芳郎会長
食の国際化の名のもと輸入を必要以上に拡大してきた結果、日本は世界に例をみない食料輸入大国となった。食料を海外に任せることは、自分の国の思うとおりの食料生産ができないこと。ひとたび輸出国に問題が発生すればその影響はわが国の消費現場に押し寄せてくる。
中国製ギョーザ問題などで輸入食品の安全性が大きくクローズアップされている。生産現場と消費現場との距離が遠ければ遠いほど、食への信頼は薄くなる。わが国の食料自給率を考えればこの問題は氷山の一角であり、輸入食品の安全性には非常に大きなリスクを抱えている。
今こそ安全・安心な国産農畜産物をもって、ニッポンの食料は俺たちに任せろ、と声高らかに叫ぶとき。WTO農業交渉はまったく予断を許さない状況で輸出国側の主張には絶対に認められないものがあり厳しい交渉が予想される。食料、農業の問題は農業者だけでなく日本国民全体の問題。このような時代だからこそ国民の信頼を後ろ盾としわが国の主張を貫かなければならない。絶対に譲れないものがある。政府には国民生活を守るという観点から断固たる姿勢で交渉に臨んでもらいたい。