第26回最優秀賞を受賞した 砂流啓二さん |
審査委員長の堀尾房造氏は講評で、「生産原価は北海道や青森で1kgあたり64円10銭、沖縄では101円50銭と昨年度に比べてかなり厳しくなっており、収益性が低迷している。その原因である配合飼料価格の高騰をうけて、例年になく自給飼料の生産への取り組みを強化した経営者が多かった。また家族労力が限界に達し、規模拡大が困難ななか、機械の共同購入と共同管理や協同組合の活用など、コスト対策の取り組みが印象的だった」と、全体的な感想を述べた。
最優秀賞を受賞したのは、「地域とともに歩む酪農をめざして」をテーマに発表した島根県安来市の砂流啓二さん。川沿いという飼料生産に不適な立地条件にもかかわらず7haの水田を作付けしたり、自らが育てた育成牛を使っていることなどが評価された。
砂流さんは「まだまだ経営努力途上なのに、こんな伝統ある賞をもらってしまい、言葉に言い表せない。若い人たちの見本となるように、これからも頑張りたい」と受賞の喜びを語るとともに、「最優秀賞受賞者は来年の表彰式にも出席することになっているが、来年まで酪農を続けられるかどうか不安だ。後継者がいるのに酪農を辞めなくてはいけないような状況が変わってほしい」と、酪農経営の置かれている現状を訴えた。
そのほか、優秀賞を受賞した5人の発表とコメントは次の通り。
五十嵐泰士さん (青森県六ヶ所村)
「私の経営理念〜牛歩確実也〜」
乳量はやや少ないが、繁殖が大事だと思い繁殖管理に力を入れてやっている。開拓からの歴史を後世に伝えるために、牛歩のように静かでも確実な一歩をしっかり進んでいきたい。
無量谷稔さん (北海道幌延町)
「北緯45゜!!〜出来る事から始めた私の酪農〜」
ずっとホルスタイン一本でやってきたことが評価されたんだと思う。牛作りは土作りなくしては有り得ない。人を愛し、土を愛し、そして大地を愛する酪農をやっていきたい。
諸見里真吉さん (沖縄県八重瀬町)
「団体職員から従業員75名の社長へ挑戦」
75名の社員というのは牛たちのこと。人間と同じタイムカードを使って、繁殖管理を徹底している。牧草地が少ない中でなんとかやっている沖縄の酪農を、息子たちへバトンタッチできるように活性化していきたい。
小林政幸さん (長野県東御市)
「家族・地域と共に歩む酪農経営」
近隣の農家の中では一番早く家族経営協定を結び、休日や経営の取り決めをしっかりやっている。朝に牛舎へ行くのが怖かった時もあったが、家族に支えられて立ち直れた。
森末雅美さん (香川県まんのう町)
「自給粗飼料を中心とした足腰の強い、大型酪農経営を目指して」
こういう場所に呼んで頂いただけでも光栄だ。祖父母が経産牛3頭で始め、私が10年前に就農した時は30頭だったが、地域最大の経産牛200頭以上の大型酪農経営を目指している。
受賞者とその家族や審査員。 前列着席の6人が受賞者 |
◆「自分も牛になるんだ!」酪農の夢コンクールも盛況
酪農の夢を語った高塩純さんと 平石厚夫農場長(左) |
昨年、酪農経営体験発表会の第25回を記念して、学生から酪農体験や酪農にかける夢や希望などの作文を募った「酪農の夢」コンクールを開いたが、好評だったため今年も募集を行った。
最優秀賞は栃木県立那須拓陽高校農業経営科3年の高塩純さん。昨年に引き続き高校生の受賞となった。
「自分も牛になる」という想いで共進会に出場し優勝した経験を熱く語るとともに、「自分が酪農経営を継いだら、自給飼料の生産を4ha増やし約60万円の経費削減をし、給餌量を1頭ごとに調整することで食べ残しをなくす。また牛群検定を月1回必ずやって、乳生産量と給餌の管理を徹底してやっていきたい」などと具体的な経営方針を持っていることが評価された。
「酪農への夢は益々大きくなるばかりだ」と語り、「将来は我が家の飼料で育った牛と一緒に、全日本ホルスタイン協会の共進会に出場するのが夢」だという。
同校の平石厚夫農場長は高塩さんを、「朝から晩まで、勉強しないで牛舎にいるような生徒だ」と賞賛していた。酪農経営体験の優秀賞を受賞した長野県の小林さんは発表を聞いて、「若い人の熱い想いを聞いて、初心を思い出した」と感心していた。
今年は全国19校の高校や大学などから、昨年を大きく上回る件数の応募があった。学校をあげて多くの生徒が応募した高校もあったという。多くの応募の中から、最優秀賞をふくむ総勢9人の学生を表彰した。