耕作放棄地の再生、利用などについて新しい発想やヒントをとりまとめ、耕作放棄地解消にとり組む機運を全国的に盛り上げようと、農水省に設置されている耕作放棄地対策研究会(座長:三野徹京都大学名誉教授・岡山大学名誉教授・鳥取環境大学教授)は、これまで現地調査を含む5回の検討を経て、10月はじめに中間とりまとめをした。
農業生産の最も基礎的な資源を活用しないことになる耕作放棄地は、食料供給力確保の支障になっているうえ、農業が持つ多面的機能の低下、地域住民の生活環境に悪影響をもたらす点でも、発生の防止と解消が叫ばれている。
これまで、農業経営基盤強化促進法の改正や中間地域等直接支払制度、農地・水・環境保全向上対策などにより、耕作放棄地の発生防止や担い手への農地流用集積がすすめられてきたものの、減少に歯止めがかからずむしろ増えているのが実情。耕作放棄地の面積は昭和50年以降、農業センサスで5年ごとに把握されているが、昭和60年までは約13万haで横ばいだったが、その後増え始め平成17年には38.6万haとなった。このうち、農用地区域内の耕作放棄地の面積は12.5万ha。また、耕作放棄地の所在・地域区分、荒廃の程度、農業利用の可能性などの正確な基礎情報がないため、農水省は市町村に調査と解消計画の策定を依頼中だ。
◆まずは地域主体のとり組み事例活かせ
中間とりまとめでは、耕作放棄地解消には多くの課題・困難があるため、現状では解消のとり組みは全国に普遍的に展開するには至っていないとして、地域主体のとり組み事例を参考に多様な主体の参画・協働による合意形成、導入作物の検討・販路の確保、土地条件の整備をはかるべきとした。
多様な主体には都道府県を始め、市町村、農業委員会、JA、担い手、都市住民らを想定。復旧後の耕作放棄地の利用主体となる耕作者は、担い手その他の農業者、特定法人、放牧地・草地として利用する畜産農家、市民農園、教育ファームなど広範な利用者をあげている。耕作放棄地の再生・利用はこれらの主体がネットワークを構成し、地域ぐるみで導入作物の検討、販路対策、用排水施設や農道の基盤整備などをおこなうことが重要だとした。導入作物には米粉、飼料米、麦、大豆等の生産拡大や、地域ぐるみの振興作物導入などを候補としてあげている。
耕作放棄地を営農可能な状態にするには土地条件の整備が必要で、雑草や灌木の除去、不法投棄物処理などに必要な費用や労力の負担がネックになっており、その解消策が必要。耕作放棄地の用途として、放牧地、草地、市民農園なども考えられ、用途に応じた条件整備の支援策を講じることについても検討が必要としている。
今後の耕作放棄地解消運動の展開に当たっては、この研究会の検討結果をふまえた地域のとり組みを支援する施策の展開、手引き書の作成、地域のとり組みに関する優良事例のとりまとめのほか、地域の農業関係者のみならず、NPO、企業等による農村協働活動促進をはかる方策を検討し、多様な主体によるとり組みの機運を醸成していくことが必要だとしている。
農水省は耕作放棄地対策として、21年度予算概算要求にこれまでの継続事業のほか新規事業として、土地改良等に10a当たり2万5000円を支援するなどの耕作放棄地再生利用緊急対策交付金230億円を盛り込んでいる。