農水省農林水産政策研究所が10月8日農水省本省の講堂で開いた講演会で、小泉武夫東京農業大学応用生物科学部教授・農林水産政策研究所客員研究員が「21世紀はアグリビジネスの時代」のテーマで講演した。大学の講義はこの10年間食文化論にしぼり、農水省の地産地消推進協議会や食料自給率向上実行委員会などにもかかわり、現場の事情にも広く通じるだけに、示唆に富むアイディアが披露された。とどまることなく、100分間の熱弁だった。
講演の要旨は次の通り。
アグリビジネスとは、発酵を含む生物を使ったビジネスのことだ。最近の自著(岩波書店刊)で反響が多かったのは、三重県立相可(おうか)高校のとり組み。畜産課の生徒が松坂牛を飼育してセリでトップクラスになったり、家庭科の生徒がレストランを経営し、学校全体で年商3億円をあげ、受験生が殺到している。また、東京農大では介護に動植物の香りを使用することを目的にしたバイオセラピー学科を新設したら、定員の168%の応募者があった。
熊本市に「泥武士」という料理屋があり、いつも開店から閉店まで若い女性で賑わう。理由は有機野菜を100%使用しているためで、2号店を東京の自由が丘と田園調布の間に出した。連日予約が詰まっている。3号店は新宿伊勢丹会館に、4号店はお台場に進出した。熊本の小さな店がアイディア次第で東京のど真ん中で大活躍しているのだ。
魚屋さんがコメに進出した例がある。北海道石狩市に「サーモンファクトリー」を持つ佐藤水産(株)は、鮭は頭も内臓も全て商品化している。また、鮭おにぎりを札幌ドームや新札幌空港で販売し、大人気になっている。
北海道で消費する酢は年間120億円。日本一の米、麦の産地だが、酢のメーカーがなかった。これに目をつけて米酢、麦酢づくりを始め、今年11月から本土に出荷するメーカーがある。
◆中国にレタス輸出、米国でモヤシ生産
長野県の川上村はレタスで、大分県の大山町はアグリビジネスで農家1戸当たりの収入が2000万円を超す。川上村の村長は、香港や上海旅行をした際にレタスが全然流通していないのに注目し、中部国際空港ができた途端にレタスを輸出した。成田経由では横持ち運賃が高くつくので、近場の空港が完成するのを密かに待っていたわけだ。中国でレタス1個の値段は800円もする。村長が考えたポイントは(1)発想を豊かに(2)まねごとでなくオリジナルで(3)買ってくれる人を作り出す、という点だ。
群馬のモヤシ工場の経営者は億万長者になった。寿司ブームなど健康食需要が大きいアメリカでモヤシを売ろうと、ロサンゼルスでモヤシ生産を始め、当たった。次はカナダをねらっている。
油断大敵の言葉どおり、中国料理は脂っこいので、酒はパイチュウやホアンチュウなど辛い酒を飲む。日本の芋焼酎の強いにおいを中国人は好むのではないか。芋焼酎の輸出はビジネスチャンスになると思う。
東京農大の自分の研究室ではカビを使ったアグリビジネスを研究中だ。(1)キノコからガン治療薬を作る(2)牛や豚など動物性の脂を植物脂に変える(3)天然フレーバーの生産の3つ。(1)はマウス実験で成功例がでている。(2)は研究中。成功すれば大量の植物脂生産が可能になる。直接体内に注射し、太った人のダイエットができる方法が見つかるかもしれない。(3)はバニラやサフランなど高価なフレーバーが安価に手に入ることになる。
若者がしょう油をあまり好まないのは、ドロドロしていないからだろう。マヨネーズ、ソース、ミートソースなど若者が好きなのはみなドロドロしたもの。野菜でドロドロしたしょう油を作れば、甘味があって若者にうけるのではないか。
◆環境ビジネスが流行
環境関係のビジネスが今後流行するだろう。焼酎は蒸留に石油を使いCO2を出すので、これからは大変だ。そこで「焼酎造りは環境作り」を鹿児島で提唱している。蒸留した廃液を発酵させて土にし、山に播いて植樹する。木がCO2を吸収する分はO2と差し引きできる。 堆肥化は産業としてビジネスになる。環境ビジネスのもう1例は福島県須賀川市の「三風」という会社。1t3000円をもらって引き取った生ゴミを微生物の力で92℃で発酵させ堆肥にしている。近隣の農家に無料で配布し、トマトなどの生産物を買い取ってレストランなどに販売している。堆肥作りを装置化しただけでビジネスになっている。次は堆肥で米を生産し、販売にも乗り出そうとしている。