◆農地利用方針との調和も要件
農水省が12月3日公表した「農地改革プラン」では貸借による農業参入の拡大を打ち出し、農業生産法人以外の法人についても農地を借りられることを認める。現行制度では農協が農業経営することについては厳しい制限があるが、他の法人と同様に農地を借りられるよう農協法も改正する。
農水省のプランでは農地を利用しやすくする観点から原則として借り手については自由化し、一般株式会社でも農地を借りて農業参入できるよう緩和した。
ただし、所有権の取得には(1)農作業に常時従事する個人と(2)農業生産法人、という要件は維持する。
また、農地の借り手要件は大幅に緩和されたといっても、農業委員会の許可が必要になる。その要件は、(1)農地を農地として利用することに加えて、(2)家族農業経営を含む地域での担い手育成などの取り組みとの整合性、も含める。
たとえば、特定された担い手に農地利用を面的に集積することが決まっていたり、集落営農が組織化されていたりなどの地域で、そうした取り組みに支障が出るような「虫食い的」賃借権の設定は認めない方針だ。
許可後は農業委員会に利用状況を定期的に報告させ、不適切な利用が明らかとなった場合は許可取り消しなど厳正な措置をとる。
一方、リース方式による株式会社参入を認める現行の特定法人貸付事業は、今回の借り手要件の緩和によって制度そのものが不要となる。
この事業は「耕作放棄地や耕作放棄されるおそれのある農地」が相当程度あるところで市町村が認めた区域が対象(=区域指定)となっていた。しかし、市町村によっては、“耕作放棄されるおそれのある農地”を具体的に指定すれば混乱を招くとして全域指定とし、形式的には区域内農地のすべてがリース方式の対象となっているという問題も起きていた。
そのため今回の改革で、地域の農地利用計画との調和を賃借権設定の要件にすることについて「(特定法人貸付事業での)区域設定よりも筋が通っている」と農水省は説明する。こうした点をふまえて原則自由化と報じられるが「農地の貸借を単純に自由化するものではない」と強調する。
◆既存組織が面的集積
農業生産法人については、出資制限を緩和する。農作業委託者からの出資も認め集落営農の法人化を促進する。また、食品関連事業者からの出資比率も緩和し、連携強化や資本の充実を図れるようにする。ただし、農業生産法人が「地域の農業者を中心とする法人」という性格は維持する。
また、農地の引き受け手がいない地域で、地権者の合意で農地の受け手を決める特定農業法人制度について、対象を農業生産法人以外にも拡大する。農地の権利取得の際の下限面積も現行の50aを農業委員会が弾力的に引き下げられるように見直す。
改革に向けて農地を面的に集積するための組織を設置することが検討されてきたが、今回のプランでは利用集積を促進する仕組みを原則として全市町村に導入するが、その実施主体は、市町村、市町村公社、JA、土地改良区、担い手協議会など既存の組織に利用集積をはかる機能を市町村が定めることとした。農地保有合理化事業は都道府県レベルでの売買機能は残すが、市町村レベルでは新たな組織が行うことにし、現在、JAなどが農地保有合理化事業で転貸を行っている場合も新しい仕組みに衣替えを図っていく。
そのほか耕作放棄地が発生した場合に、すべてを対象に地域でただちにその解消対策がとれるような簡便な制度も検討する。
◆責務を明記、転用規制は強化
貸借による農地の有効利用を進めるため、所有権、賃借権を問わず権利を持つものについて、農地を農地として利用する「責務」を農地法上に明確に位置づける。
農地の合理的な利用調整を行う仕組みである「農用地利用集積計画」を策定する場合、共有農地については現在、共有者全員の同意が必要になっている。しかし、今後、相続等で共有農地の共有者が増えることが見込まれることから、共有物の管理に関する民法規定をふまえ2分の1同意で計画策定ができる制度に改める。
そのほか20年を超える長期賃貸借ができるようにすることや、標準小作料制度を廃止し、作物別、ほ場別の実勢借地料を情報提供する仕組みとすることも盛り込まれている。
一方、転用規制は厳格化する。現在は、病院、学校など公共施設は転用許可不要となっているが、許可対象とする。また、一定のまとまりのある農地は転用できないが、その基準20haを引き下げる。
違反転用については現行の「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」を強化。都道府県が行っている2ha以下の農地転用許可について、国も執行状況について把握し、不適正な事例が認められた場合は国が指示を行うことができるようにする。
原則転用禁止の農用地区域からの除外についても、担い手の経営基盤となっている農地には認めないことにするほか、農用地区域への編入を促進するため面積基準を引き下げる。
◆農協法改正の方向
現行の農協法では、農協の農業経営は、農地保有合理化事業で買い入れたり借り入れたりした農地を、新規就農者の研修目的で活用する場合に限られている。
この場合、事業に常時従事するものの3分の1以上は組合員か、組合員と同一の世帯のものでなければならないとの規定があるほか、そもそもこの事業を行うときには、「総組合員(または総会員)」の「3分の2以上の書面による同意」を必要としている。現行規定は、農協は農家が共同で行う事業の組織者であって、農家と同じような農業経営の主体にはなれないことを厳しく規定しているといえる。
しかし、担い手不足が深刻化するなか、農協が地域の農地の引き受け手として農業経営に乗り出さざるを得ないことも考えられるとして、経営局協同組織課では、とくに3分の2以上の同意規定を引き下げる方向で農協法改正を検討するという。
農地改革プランは3日の経済財政諮問会議で石破大臣が説明。農水省は了承が得られたとして、農地法改正案など関連法律案を準備して次期通常国会に提出する予定だ。