水稲超多収に挑む農研機構
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農業・食品産業技術総合研究機構(堀江武理事長、茨城県つくば市、以下「農研機構」)は12月10日、東京国際フォーラムで平成20年度農研機構シンポジウム『食料危機を克服する作物科学』を開催。新たな農業ビジョンや技術開発などを討論した。
農研機構は、日本農業の競争力強化を通じた食料自給率の向上、食の安全・安心の確保、さらに地球環境保全を重要な目標とし、生産から加工・流通・消費までの研究技術開発を行っているわが国最大の研究機関。
基調講演を行った5氏の講演内容は次の通り。
東大農学生命科学研究科の生源寺眞一科長・農学部長は、『変わる国際環境と日本の農業』で講演。モンスーンアジア最初の先進国という自然・社会的条件を踏まえながら、土地利用型農業と農村社会の新しいビジョンを探ったほか、技術開発や農政の立て直しにも言及した。
農研機構の岩永勝作物研究所長のテーマは、『『緑の革命』への日本の作物科学の貢献』。『緑の革命』に日本人研究者の果たした役割は大きいとし、「待ったなしの食料問題を解消するには『第二の緑の革命』と呼ばれるほどの画期的な技術開発により、作物の生産性を大幅、かつ持続的に上げていくしかない」と指摘。
『気候温暖化に耐えうる作物の栽培技術』で講演したのは、石川県立大学の中川博視准教授。作物の栽培技術を品種の選択や新品種開発も含む広い意味でとらえ、温暖化に耐えるための技術適応を考察した。
また、『超多収水稲品種の開発最前線』をテーマに講演したのは、農研機構の安東郁男稲マーカー育種研究チーム長。「北陸193号」、「モミロマン」、「タチアオバ」、「たちすがた」など、最近の新品種を紹介するなか、「これらを上回る収量性が期待できる有望な系統が開発されてきており、こうした多収品種・系統の収量不安定要因をDNAマーカー選抜で改良する育種も試みられている」と報告。
より実践的な討論が行われた (12月10日、東京国際フォーラムにて) |
さらに、同じく農研機構の吉永悟志稲収量性研究チーム主任研究員は、『水稲超多収に対する農研機構の挑戦』で講演。日本各地で900〜1000kg/10aの収量目標の達成を目指すために、(1)多収品種の特性の明確化や品種に適した栽培技術および作付け時期の提示、(2)「米作日本一」事業で用いられた技術の有効性を検証し、現在の栽培体系への応用、(3)地下灌漑システムなどの近年開発された新技術の多収栽培への適用などの研究開始を明らかにし、これらの成果をもとにした「超多収水稲栽培体系の構築」を目指すとした。
総合討論は、東大農学生命科学研究科の大杉立教授の司会で行われ、新たな農業ビジョンや技術開発を中心により実践的な討論が行われた。