◆国連人権委に世界が注目
JA全中はWTO交渉をめぐる状況と今後の運動展開についての方針をこのほどまとめた。
WTO交渉は妥結をめざした昨年末の閣僚会合開催は見送られた。しかし、世界的な金融・経済危機のなか、信用不安からの貿易決済停滞が途上国経済にダメージを与えて始めているとの指摘や、米国の自動車産業支援などが保護貿易につながるとの懸念などから、経済を回復させるには交渉を早期に妥結させるべきとの国際世論が盛り上がる可能性もある。
一方、昨年12月には国連総会のもとに設置されている「国連人権理事会」が、現在のWTO交渉についての評価に関する中間報告を発表。報告でドシュッテル特別報告官は「貿易が途上国の開発と食料を得る権利の実現に向けて機能するには農産物の特殊性を認識する必要がある」と指摘した。
そのうえで貿易と「食料を得る権利」が整合性を持つためには▽食料を得る権利と整合しないWTOの約束を各国が受け入れない、▽セーフガードの重要性を認識する、▽食料安全保障の手段として貿易に過度に依存しない、▽各国が多国籍企業への十分な規制を国内で行う、ことなどを勧告している。国連人権理事会の最終報告はこの3月に予定されており、食料安全保障に対する国際世論への影響が注目されている。
また、国連食糧農業機関(FAO)のディウフ事務局長は、昨年11月のFAO臨時総会で飢餓根絶のための農業インフラ投資の拡大や、食料安保のための新しい制度の創設が必要などと強調し、昨年に引き続き今年も世界食料サミットを開催する意向を示した。
昨年の洞爺湖サミット後に開催される予定だったG8農相会合も開催に向けて調整が行われており、これらの場での国際的な議論がどう展開するか注目される。
ただし、WTO交渉が長期化すると2国間でのEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)に世界が向かう可能性もある。日本は日豪EPA交渉を抱えており、8回めの会合開催が2月に東京で予定されている。豪州駐日大使は昨年、関税撤廃によるメリットなど消費者に訴えるパンフレットを作成、JAグループの役員にも送付されたという。これに対して、交渉に際し協議対象から除外するよう日本が求めている農産物に関して、交渉結果を一方的に予断する内容だとの批判が高まっており、近くJAグループの考え方を茂木全中会長名で駐日大使に送付するとしている。
◆国民理解に向けシンポ開催
こうしたなかWTO交渉は1月末にスイスで開かれる世界経済フォーラム(ダボス会議)に合わせて開催予定の少数国非公式閣僚会議から、事務レベルでも交渉が再開される見込みといわれている。
ただ、4月の金融サミットや、5月のインド総選挙、さらに米国のオバマ新政権の交渉体制づくりまでの時間などをふまえると、想定される交渉の山場は例年どおりの「7月末」、または欧州委員が総交代する10月末以前の「9〜10月」になるとの観測が強いという。
このためJAグループは当面7月末までを運動期間として設定、(1)交渉が長期化する想定のもと食料危機をふまえた新たな交渉枠組みを求める取り組み、(2)早期妥結に向けて展開していく想定のもと、ファルコナー議長第4次改訂版を交渉の土台とする場合の取り組み、の2つの路線に対応できる運動展開を進める。
運動の重点は(1)多角的な情報分析に基づく戦略立案、(2)食料主権の確立を求める国際的連携強化、(3)食と農の将来についての国民理解促進の3点。
このうち食料主権の確立を求める国際的な連携の強化では、3月に「協力のためのアジア農業者グループ」(AFGC)の定期会合をタイで開催、茂木全中会長が出席し、アジアの農業者と食料安全保障についての討議を行うほか、4月以降に中国、インドネシアなどへの代表団を派遣した意見交換なども検討していく。 国民理解の促進では、県段階の食料・農林漁業・環境フォーラムによる地方からの世論喚起の運動とともに、6月に食料安保、農業生産力の増強、飢餓・貧困の撲滅などをテーマにしたシンポジウム開催を予定している。
WTO交渉をめぐっては1月27日から審議が始まった「基本計画」の見直しと一体となった検討が必要との考えから、JAグループでは、新基本計画の策定で「新たな農産物貿易ルールの確立」も視野に入れた議論を巻き起こすことにも力を入れる。