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愛知の鳥インフルエンザは弱毒タイプ、移動制限を縮小

−農水省

喜田宏・北大教授 2月27日に愛知県豊橋市のうずら農場で発生が確認された高病原性鳥インフルエンザは同日中に弱毒タイプであることが確認されたことから、愛知県は移動制限区域を10kmから5kmに縮小した。 発生農場から半径5km以内には23戸の農場があり、うずらのほか採卵鶏、ブロイラーなど合わせて約202万羽が飼養されている。また、発生農場には消毒が行われるとともに、飼養しているうずらなどの殺処分が防疫措置として実施される。 3月1日には今回確認されたウイルスは「H7N6」であると(独)農研機構動物衛生研究所が確定した。農水省によるとH7型のウイルスが日本で検出されたのは1925年。84年ぶりに...

喜田宏・北大教授
喜田宏・北大教授

2月27日に愛知県豊橋市のうずら農場で発生が確認された高病原性鳥インフルエンザは同日中に弱毒タイプであることが確認されたことから、愛知県は移動制限区域を10kmから5kmに縮小した。
発生農場から半径5km以内には23戸の農場があり、うずらのほか採卵鶏、ブロイラーなど合わせて約202万羽が飼養されている。また、発生農場には消毒が行われるとともに、飼養しているうずらなどの殺処分が防疫措置として実施される。
3月1日には今回確認されたウイルスは「H7N6」であると(独)農研機構動物衛生研究所が確定した。農水省によるとH7型のウイルスが日本で検出されたのは1925年。84年ぶりに国内で確認されたことになる。
A型インフルエンザのうちニワトリなど家きんに対して病原性を持つ「高病原性鳥インフルエンザウイルス」のHA(ヘマグルチニン、赤血球凝集素)亜型は「H5」と「H7」に限られている。
平成16年(04年)、79年ぶりにわが国に発生をもたらしたのは「H5N1」で17年、19年の発生も「H5」(NA亜型はN1またはN2)だったが、世界的には「H7」亜型は07年韓国(N8)、05年北朝鮮(N亜型は不明)の発生が確認されているほか、英国、デンマーク、イタリアなどでも確認されている。
「H5N1だけが高病原性鳥インフルエンザウイルスだと誤解してはならない」と喜田宏・北大教授は話す。

◎功を奏した先回り作戦

今回の発生は定期的なモニタリング検査で確認された。農場ではうずらの死亡率が上昇しているなど臨床症状はみられないが、25日に抗体陽性が確認された。そのためウイルスの検出検査を行ったところ飼養しているうずらの群からH7亜型のインフルエンザウイルスが検出された。
「症状がないにも関わらず検査の結果(ウイルスが)見つかった。教科書のような対応」と農水省の家きん疾病小委員会委員長でもある喜田教授は話す。2月28日夜に開かれた小委員会でも今回の発生確認は「適切なモニタリングの結果」と評価、発生農場と周辺農場への防疫対策を行うとともに、全国の立ち入り検査とモニタリングを継続することが重要だとされた。
こうした対応が重視されるのは、今回検出されたウイルスの遺伝子分析で、「強毒タイプに向かってステップを踏んでいる場面を捉えることができた」からだという。感染経路など追求は今後の課題だが、高病原性鳥インフルエンザは家きんのなかで感染を繰り返すことによって突然変異が起きて強毒性を獲得していくと言われている。そのため今回得られた遺伝子情報をさらに検討するとともに、感染経路も調べる「疫学調査チーム」を同日発足させ現地調査を行うことにしている。
喜田委員長は今回の事例は「(強毒タイプ発生を防ぐ)先回り作戦が功を奏した」としている。高病原性鳥インフルエンザは弱毒タイプであっても放置しておけば、必ず強毒タイプが出現するというのがこれまでの研究で明らかにされており、発見時点での封じ込めが必要になる。この問題では臨床症状が見られないにも関わらずなぜ殺処分かとの声も出るが「協力してもらわなければ病気はなくならない。納得していただくとともに、一方では損害は補償しなければならない」(喜田委員長)としており、農水省も経済的な損失についての対応はこれまでも行っている。

【解説】
高病原性鳥インフルエンザウイルスの弱毒タイプとは、呼吸器や腸管など局所感染にとどまるタイプ。強毒タイプは全身感染する。これに感染した鳥は48時間以内にほぼ100%バタバタと死ぬ。強毒タイプのウイルスはH5とH7型だけに存在する。
弱毒と強毒を分けるのは、鳥の持つタンパク分解酵素の働きの違いだ。
HA(赤血球凝集素)とはウイルスの表面に飛び出したスパイク。これが細胞の受容体(レセプター)と結合するが、それだけでは細胞に侵入し感染、増殖できず、HAの特定の部分がタンパク分解酵素によって切れて細胞と融合できる状態になる必要があるという。これが「開裂」と呼ばれ、弱毒タイプの開裂部分は1つの(アルギニン)アミノ酸で構成されている。この構造を「切る」ことができるタンパク分解酵素は、実は呼吸器と消化器にしか存在しないのだという。つまり、弱毒タイプのウイルスは脳やさまざまな内臓に行っても細胞に入り込ませてもらうためのタンパク分解酵素がないということになる。
一方、強毒タイプの開裂部分はアルギニンのほか、リジンなどのアミノ酸が複数並んでおり、これを「切る」タンパク分解酵素はすべての細胞が持っているのだという。つまり、全身で感染を起こすことになる。
喜田委員長によると、今回検出されたウイルスの開裂部分には、アルギニン、リジンが3つ並んでいることが分かった。強毒タイプとはこれらが「4つ並ぶのが第一条件」。その仕組みは突然変異で、鳥の間で感染を繰り返しているうちに起きると言われる。その意味から今回の検査は「強毒化していくステップ」を捉えることができ「定期的モニタリングの意義は大きい」という。
もっとも現場にとってはそもそも「H7N6」がどこから来たのかが気がかりだ。強毒化していく仕組みの解明とその対応策とともに、感染経路の究明が期待される。

(2009.03.02)