21年度畜産・酪農対策の決定に向けてJAグループは全国代表者集会を開くなど特別運動を展開。政府与党も2月下旬から議論を本格化させ3月5日の政策価格と関連対策の決定に向けて大詰めを迎えている。
飼料価格は引き下げがあったものの高騰前に比べてトン1万3000円も高い水準。加えて景気後退によって畜産物価格が低迷するなど、畜産・酪農経営は大きな負債も抱える。
自民党の畜産・酪農小委員会では、苦境にある農家に対して「緊急経済対策としての対策が必要だ」など不況対策、負債対策の観点で考えるべきとの意見も出ており、加工原料乳生産者補給金単価や、肉用子牛の保証基準価格など政策価格は「飼料価格高騰など過去のマイナス部分を十分に反映して」決定すべきことなどが論点になっている。また、酪農では乳価引き上げにともなう消費減に対するセーフティネットの構築、肉用牛ではマルキン事業、補完マルキン事業で充実策なども論点になっている。
◇
2月27日にはJA全中と全国農政連が全国代表者集会を開き、畜産・酪農生産基盤が維持できる十分な対策決定を求めた。
【JA全中・茂木守会長】
生産者手取りは明らかに減少しており、借金を返そうにもこの経済危機による価格低迷を受け、生産者の経営と生活はさらに圧迫されている。
飼料の高止まりのなかで生産性の向上などの努力に取り組む一方、規模拡大にともなう設備投資を重ねており、そのための借入れが生産者の経営に大きくのしかかっている。
畜産・酪農は大規模投資を必要とすることから一度経営が破綻すれば再生は不可能。今まさにわが国の畜産・酪農が今後存続できるか否かの岐路にある。
生産基盤が今後維持できるように畜産酪農経営の将来が展望できる基本政策の確立に向けて、JAグループの総力をあげて取り組む。
【代表要請・川井田幸一JA全中畜産酪農委員会畜産委員長】
★肉用牛対策
日本経済全体が冷え込むなか、近年になく牛肉枝肉価格は低迷。マルキン事業や補完マルキン事業の発動はあっても、コスト割れをすべて補完できていない。とりわけ物財費割れは生産者にとって、実際に現金での支払いが発生する部分、このコスト割れを補てんする対策の充実強化が必要。 また、価格が低迷している子牛についても繁殖経営の再生産が図られるよう十分な支援水準の確保を。40万円水準だというのが現場の強い思いだ。分かりやすい対策を。不景気による国産畜産物の消費減退が懸念され消費拡大に向けた輸出の促進、外食における食肉の原産地表示の義務化など消費拡大を進めてほしい。
★酪農対策
取引乳価についてはこの3月から引き上げが実現する。現場の酪農家にとっては引き上げ後の3月の乳代が4月に支払われることになり、それを当てに現在も苦しいなかでがんばっている。苦境にある酪農経営を元気づけるために、加工原料乳の補給金単価は現行以上を堅持し、限度数量も確保。また、生産力の減退が著しい都府県のおいても、すみやかな生産回復が図られるよう、生産性向上対策など関連対策についても充実・強化を。乳価引き上げによる需要の減少が懸念されることから、酪農経営の手取りを確保するための万全のセーフティネット対策を講じることが必要。
★養豚対策
年明け以降、豚肉価格が大きく値下がりし現在は持ち直しているものの、生産者は不安を抱えている。需給と価格の安定のために危機的な状況が発生した場合には敏速な対応と、21年度対策では肉豚価格差補てん事業の十分な予算確保を。
★自給飼料確保・生産性向上対策
飼料用米の拡大、定着や広域流通などの利用促進、草地対策や地域ごとの未利用資源の飼料利用など多様な地域の実態をふまえた自給飼料生産拡大のための対策が必要。生産性向上や効率的な自給飼料生産を支援するリース事業の充実強化も現場の要望がきわめて強く十分な予算確保を。
【決意表明:佐々木大輔・北海道農協青年部協議会副会長】
佐々木大輔 北海道農協青年部協議会副会長 |
乳価の引き上げ、配合飼料価格の引き下げで一見状況はよくなっているように見えるかもしれない。搾乳牛250頭、総頭数450頭の酪農専業だが、3年前にくらべて飼料価格は1000万円も増えた。3年間、体力を削りながら営農してきた。次の波が来たときに持ちこたえられるか。万一、21年度対策で補給金単価が引き下げられるようなことになれば若い担い手の芽を摘むことになる。現行水準以上の確保が必要だ。
今こそ農業を基礎とした足腰の強い国づくりをするチャンス。抜本的な政策の見直しで安心して営農が続けられるような環境づくりを。われわれも安心・安全な牛乳を生産することを約束する。
【決意表明:角井智人・宮崎県農協青年組織協議会副委員長】
角井智人 宮崎県農協青年組織協議会副委員長 |
食農教育に取り組んで12年。子どもたちには、食肉生産だけが目的ではなく、牧草、わらは地域の澄んだ空気をつくり、糞尿は肥料として利用しているなど循環型の農業をつくっていることを伝えてきた。このどれが欠けてもサイクルは崩れてしまう。
地域の和牛生産では生産者の高齢化が問題となるなか、キャトルステーション事業で子牛を預かり、他の農家が増頭できるよう協力している。口蹄疫、BSEと何度も難局を乗り越え、安心・安全はもちろん、コストダウンにも徹底して取り組んできた。しかし、不況が追い打ちをかけ、牛肉価格は低迷、経営破綻と隣り合わせで営農している。マルキン事業の充実強化のほか、中長期的な視野に立った畜産生産基盤確保のための経営所得安定対策が必要だ。