内閣府の食品安全委員会は3月12日、体細胞クローン技術で産まれた牛や豚とその子どもらを食べても、健康的な影響はないという答申を厚労省に提出した。同省は平成20年4月、同委員会新開発食品専門調査会に諮問していた。
体細胞クローン技術とは、生殖細胞以外の体細胞を別の牛の卵子に移植して再構築胚をつくり、さらに別の受胚牛に移植し出産させる技術。従来繁殖(交配による受精)と異なり遺伝的に同一の固体を産み出すもので、遺伝子組み換えは行わない。実験用個体の確保、絶滅危惧種の保護などで効果が期待されている。日本では20年9月時点で牛82頭、豚35頭が育成・飼育中だ。
体細胞クローン技術で産まれた牛、豚は従来繁殖に比べて、若齢時の死亡率が高い。高死亡率の原因は、受精卵が全能性(注)を獲得できない場合があるからだと、同調査会は分析したが、ヒトが食した際に健康に悪影響を及ぼすような毒性、病原性などは認められず、遺伝子組み換えをしないので新しい生体物質が作られることもないため、「従来繁殖と同等の安全性を有する」と結論を出した。
今の時期にこの結論を出したのは、「昨年欧米で同技術によって産まれた牛や豚の安全性が認められたから。今後、欧米から同技術で産まれた牛や豚の輸出が始まる可能性もあり、日本でも一定の枠決めが必要だ」(同委員会)としている。
同委員会では今回の発表について、3月12日から4月10日まで、広く意見や情報を募集する。同委員会ホームページ(http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_shinkaihatu_clone_210312.html)から、誰でも応募できる。また、東京と大阪で意見交換会も行われる。(関連記事)
【解説】 全能性 あらゆる細胞に分化する能力のこと。受精卵が全能性を獲得すれば、細胞は正常に発生・分化するが、全能性を獲得できないと異常な発生・分化をして、流産・死産や生後直死などがおこる。全能性の獲得を阻害する要因として、発生の基本メカニズムであるエピジェネティクスの異常が指摘されている。自然な交配でも、エピジェネティクスの異常は検出されている。 |