◆米国型市場原理主義の「崩壊」を認識
JA全中は3月25日、第25回JA全国大会に向けた大会議案審議会を開催、4月9日の全中理事会で決定する組織協議案を審議した。
今回の組織協議案のタイトルは「大転換期における新たな協同の創造 ‐ 食料・農業・地域への貢献とJA経営の変革」。
組織協議案では、米国発の金融危機に端を発する世界的な景気減速を受け、「米国型の市場原理主義への過度な偏重を疑問視する動きが強まっている」と指摘 し、「協同組合理念に基づく事業・活動が再評価される環境が醸成されている」といった環境認識を盛り込む。そのうえで組合員・地域住民の視点から「多様な 連携・ネットワーク化により新たな協同を創造していく」ことを打ち出す。審議会では環境認識について、米国型市場原理主義は「すでに崩壊している」と盛り 込むべきとの意見も出たという。
前回大会まで大会議案のキーワードは「共生」だったが、今回は「協同」を前面に出す。
それも農商工連携など地域の産業や生協、農業法人などの担い手、さらに医療、福祉機関などとの協同といった「これまでより協同の範囲を拡充する」(JA 全中のプロジェクト)ことで、農業生産の増大、消費者への食料供給、地域づくりなどに貢献するJA、JAグループづくりをめざす方向を示した。「新たな協 同の柱にJAがなる」(JA全中事務局)という問題意識が込められている。
組織協議案は「I:消費者との連携による農業の復権」、「II:総合性の発揮による地域貢献」、「III:協同を支える経営の変革」の3つの柱で構成されている。
◆農地利用集積の取り組みを重視
「農業の復権」では、JAによる農地利用集積に主体的に取り組む方針を掲げる。高齢化という現実をふまえ、組合員の農地の状況と営農の意向を確認したうえ で、地域の農地利用の長期ビジョンを描く。そのうえで「農地を出す意向の組合員に対してJAが農地の斡旋を行う」ことを積極化する。
農地貸借を原則自由化する農地法改正の動きを受け、他産業からの動きが激化するなか、地域の構成員、組合員である「農地の出し手」と「担い手」をマッチングさせる取り組みを行うことによって、両者との関係継続、強化を図ることを目標とする。
一方、農地の受け手となる担い手が十分確保できない地域では、農地法改正でJAの農業経営が可能になることから、これまでのJA出資型法人に加えて、JA本体による農地管理・農業経営を実施することも実践課題に盛り込む。
組織協議案には、その場合の原則を「JAの農業経営にかかる4原則」を示し議論を深める。現段階では▽地域の他の担い手との連携をはかる、▽JA直接経営の場合は区分経理を明確に事業継続性の観点から収支確保を原則とする、などが示されている。
そのほか、地産地消、農商工連携強化や、「相手先を特定した販売事業の取り組みを強化」し、JAグループが一体となった「安全・安心のネットワーク構築」もめざすとしている。
また、「みんなのよい食プロジェクト」などの実践を通じて、日本農業への国民理解を広め、再生産可能な農業所得確保などに向け「消費者と生産者の連携による農業政策の実現」も掲げている。
◆県域機能を再編し経営基盤を強化
「新たな協同の創造」にともない、組合員加入促進も前回大会決議に引き続き課題となる。
そのためにJAは「支所・支店」、「経済センター」、「渉外体制」といった機能や、助け合い活動、食農教育活動など組合員・地域住民への「活動の場の提供」を通じた総合事業体としての着実な実践を目標に掲げる。
また、多様な組合員による組織基盤の強化を図るために、それら組合員の組織活動支援とともに、JA運営への「多様な組合員による意志反映」も重点とし、 さまざま構成員による組織活動の代表者が意見表明の場に参画できるなど、今日的なJAらしい意志反映の仕組みの確立もめざす。
同時にJAが総合力を発揮するための連合会のサポート機能を再編する方向も打ち出す。
これまでのJAグループの組織再編は、JA段階では一般的に「郡単位を目安とした広域合併」を進めてきた。ただし、それによって「改革」の名のもとに支店・支所といった地域の事業・運動拠点を統廃合してきたことも事実。
一方、今回は「新たな協同の創造」を掲げ協同の範囲を広げていこうとすれば、組合員・利用者の接点としての支所・支店が“新たな協同創造の起点”として改めて重要になる。
こうしたことから今回の大会議案では支店・支所の「接点機能」の充実を掲げた。同時に、「徹底した効率化」をめざし、JAに共通する業務のうち、県域に 集約したほうが効率的・効果的な機能については「あたかもひとつのJAであるかのように県を単位として機能集約を図る」ことで業務運営体制を確立すること をめざす。
たとえば、すでに実現している生産資材の県域一括配送、農機センターの広域化のほか、融資事業でも推進は地域実態に応じたかたちでJA段階で実施して も、審査機能は県域が持つ、といったイメージで「県を1つの戦略単位」とする方針だ。100年に一度と言われる経済状況の悪化のなか「県内のJAで一緒に できる機能は何か、それを探してみよう」(JA全中事務局)という模索のなかから、徹底的な効率化による経営基盤の強化をめざす方針といえる。最終的な大 会議案では県域戦略づくりにためのメニューを示すという。
この日の審議会では▽農商工連携を進めるには食品企業など地域の農業関連産業にも融資するJAであるべきだ、▽組合員が拡充したり「くらしの活動」が強化されてもJA経営にとってすぐに効果が出るわけではなく逆にコストが増す。連合会、中央会のサポートが必要だ、▽JAの農業経営の必要性を打ち出すならニーズや経営の見通しをしっかりふまえるべきだ、などの意見が出た。これらの意見もふまえて組織協議案がまとめられ、4月9日の全中理事会で決定される見込みだ。