◆13期ぶりの経常損失
経常損失は6127億円、当期純損失は5657億円となった。経常利益が赤字となるのは1996年3月期以来13期ぶり。
保有有価証券の減損処理に加え、より安全を重視した財務運営のため積極的な売却など損失処理を行ったことが大きな要因。
世界的な金融市場の混乱の継続、拡大で証券化商品や株式が過去に例のない価格下落に見舞われ有価証券等の評価損は拡大し、評価差額は2兆929億円と前期より1兆6617億円も損失が拡大した。
有価証券の評価損は自己資本比率の低下につながるが、農林中央金庫は会員から1兆9000億円の増資を実施した。このうち自己資本の基本的項目(Tier I )に組み入れることができる後配出資(普通出資者より配当の受取り権利が劣後する出資)が1兆4000億円、自己資本の補完的項目に組み入れる永久劣後債が5000億円で、その結果、自己資本比率は前年度末にくらべ3.1%上昇し15.65%となった。自己資本に占めるTier I 比率は9.61%となった。
◆自己資本を高める
河野理事長は会員からの増資について「JAバンク、JFマリンバンクそれぞれの強固な基盤と会員のきずなの強さを痛感した。大変感謝している」と述べた。
また、理事長自身、就任以来、36県を訪問したといい「今回の増資にあたって役職員がJAまで出向いて説明したことでJA、JFとのきずなが太くなったことは金庫にとって大きな財産。ますます太くしていくことが私の責務」と話した。
増資にあたって決定した「経営安定化計画」は09年度から4年間の中期の基本方針。計画の柱は(1)強固な財務基盤の構築と会員への安定的な収益還元、(2)農林水産業を基盤とする協同組織中央機関としての農林水産業への貢献だ。
河野理事長は各県でのこれまでの意見交換で、金庫が財務運営の基本としてきた「国際分散投資」というビジネスモデルの考え方を「大きく変更すべきという声はなかった」、としながらも、「リスク管理を強め安定的な収益をあげる投資スタイルにしてほしいという声があった」という。
そのため安全・安心を重視、自己資本比率を15〜20%に維持し、そのうえで今期は約3000億円の収益還元を想定し、結果として700億円程度の経常利益となるよう運用するという。
これまでは期当初に経常利益目標を示してきたが、経営安定化計画のもとでは「安定的な収益還元をした後に」利益を確保する方針。
計画期間中の経常利益は500〜1000億円を見込む。06年からは3期連続で3000億円台を確保していた。また、大幅赤字のため今期は無配。計画では最終年度の2013年3月期決算での復配をめざす。「会員からの期待が高い。計画は4か年だが、今年が勝負。着実に実践していきたい」と河野理事長は強調した。
現在の金融・経済状況については「昨年9月から10月のようなストレスにさらされることはないのでは。ただ、楽観はできず現状を前提に事業に取り組む」(河野理事長)との認識だ。
◆JAとの人的交流も
農林水産業への積極的なサポートでは、農林中央金庫自身が農業などへの貸出・リスクマネーの提供に「出向くスタンス」をとる方針。県の支店は県信連との統合によって減っているが、県信連の機能を兼ねている統合支店などをモデル店舗にして投資や経営改善のサポートも行うという。また、JAや県信連に計画期間の4年間で50人程度を出向させる。県信連の企画能力の向上やリテール業務を実践する職員をJAに出向させ交流の強化を図る。
なお、6月25日の総代会には上野前理事長を含む理事退任者の退職金に関する議案は上程されない予定だが、今後の扱いは業績動向や系統組織の意向をふまえて検討されるという。
〈新役員体制〉(予定)
【代表理事理事長】
▽河野良雄(再)
【代表理事副理事長】
▽向井地純一(新、現JA全中専務)
【理事】
▽宮園雅敬(再)
▽松本浩志(再)
▽古谷周三(再)
▽高岡淳(再)
▽鳥井一美(再)
▽高橋則広(再)
▽吉田一生(再)
▽石田隆廣(再)
▽飯田英章(新、現大阪支店長)
▽押久保直樹(新、総務部長)
▽池上有介(新、現総合企画部長)
【監事】
▽岸康彦(再)
▽田中龍彦(新、マルハニチロホールディングス取締役相談役)
▽田中正昭(再)
▽小西孝藏(再)
▽岩渕毅(新、現秘書役)
【退任予定】
▽?正伸専務
▽田島俊彦常務
▽内山悦夫常務。
(写真:河野理事長)