◆地域との調和が要件
平成19年末から本格化した農地制度の議論は、「担い手への集積が十分に進まない」、「規模拡大しても農地は分散したまま」、「農地の受け手がいなくて耕作放棄地が増加している」といった現状をふまえて、「農地を貸しやすく借りやすく農地を最大限に利用する」との見直し方向が打ち出された。
その一方で農地転用規制を厳格化し「これ以上の農地の減少を食い止める」という措置も強化することにした。
この考え方に立って改正農地法では、農地の「所有」については家族経営などの個人と農業生産法人に限定するというこれまでの規制を維持するものの、貸借(利用権)については参入規定を緩和した。
同時に農地の所有・利用の権利を持つ者の責務規定を農地法に新設している。
改正農地法では、農地の権利を持つ者は「農地の農業上の適正かつ効率的な利用を確保するようにしなければならない」と盛り込まれた。
また、賃借による利用権が認められる条件として、▽農地を適正に利用していない場合に貸借を解除、▽地域の他の農業者との適切な役割分担のもとに、継続的かつ安定的に農業経営行う、という規定を設けた。
利用権の認可は農業委員会が行うが、市町村長が意見を述べることができるほか、許可条件として農地の利用状況の報告を義務づけた。
また、許可後に周辺の地域農業に支障が生じている場合は、農業委員会などが勧告する。農水省によると、たとえば周辺の水利利用ができなくなるような土地の改変などが考えられるという。
さらに不適正利用が解除されない場合には農業委員会などが権利を取り消す。
◆農地の効率的利用
今回の改正農地法では、貸借について自由化したが、地域の家族経営農業、集落営農の取り組みに支障を来さないという要件や、あるいは農業生産法人は、業務執行役員のうち1人以上が農業に常時従事する、と規定したことなどから「農業の実態は家族経営と地域の農業者を中心とした生産法人、という考えは変わらない。(企業参入など)現場の危惧、不安感を払拭する装置はいくつも措置されている」と農水省は説明する。
また、農地を所有・利用する者の責務規定として農地の「適正利用」、「効率的利用」を挙げているが、適正利用とは「農地としての最低限の利用」、効率的利用とは「通作距離があって、極端に生産性が落ちるような農地の貸借を防ぐため」という。必ずしもこの規定は農地の大規模集約を意味するものではないという。
◆地域政策の受け皿としての集落法人
むしろ今回の改正で農業生産法人の構成員の見直しによって、集落営農組織に多様な経営が可能になることを農水省は強調している。
構成員要件は農業者はもちろん、JAなどの団体、農地の貸し手、作業受託農家などと幅が広がる。
多様な株主によって、集落営農組織を地域(集落)法人化し、販売部門や農産加工部門、市民農園経営部門などのほか、農地・水・環境保全対策といった地域政策の受け皿として機能する組織とすることもできる。
「地域、集落で農をコアとし多彩な構成員でさまざまな事業が可能になる」(経営局)。
ただ、その一方で今回の改正では農地の利用集積を進めるための施策も打ち出された(農業経営基盤強化法)。
全国の市町村に農地の「利用集積円滑化団体」を設置。同団体は▽中間保有リスクを避けるため委任・代理方式で集積を推進、▽集落段階での面的集積を進めるコーディネーターを設置などを行う。
面的集積の必要性は農地制度見直し当初から強調された点だが、今後、どう仕組みが具体的に動き出すか。地域の農業者の合意も鍵となる。
そのほか、今回の改正では農地の転用規制についてもその厳格化を初めて規定した。
違反転用については、300万円以下の罰金が1億円に引き上げられた。また、農用地区域内農地について、利用集積が阻害されるおそれがある際には、農用地区域からの除外を認めないなど積極的に優良農地確保策も打ち出している。