◆「田んぼの生きもの調査」で稲作の危機を救おう
近年、日本の稲作は高齢化・後継者不足・・米価低迷などの危機が叫ばれているが、有効な打開策はなかなか出てこない。
そこで、田んぼの生きもの調査を通じて「田んぼはコメを生産するだけの装置ではない、多くの命を育んでいる」ことを国民全体が知り、消費者と生産者の双方からともに水田稲作を守るんだ、との声を高めることで稲作の危機を救おうというユニークな取り組みが「田んぼ市民運動」だ。
田んぼの生きもの調査だけでなく、田んぼ保全のさまざまな取り組みに参加した生産者、消費者を「田んぼ市民」として登録する。「田んぼ市民」は、生きもの調査に参加した田んぼから採れたコメに対して寄付を行い、寄付金は生産者へ支払われる。いわば、民間型の環境直接支払い制度だ。
現在、生産者側の主要メンバーは、田んぼの生きもの調査を実施しているJAあきた北央、山形おきたま産直センター、JAたじま、佐渡の長畝生産組合など。流通関係者なども巻き込み、今年度産のコメが出始める11月から本格的に運動をスタートする予定だ。
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田んぼの生きもの調査をする生産者、子どもなど
◆「田んぼ市民」は21世紀型の協同運動
運動を提唱するBASCの原耕造理事長は、活動の理念を次のように述べている。
「農業を食の安全と価格の切り口でしか見ていないから、現在のような危機的状況になった。田んぼの生きもの調査を全国展開し、環境への貢献を伝えることで一般市民を巻き込んで、この危機を救いたい。
田んぼ市民運動によって、生産者と消費者は対立する関係ではなく、ともに田んぼや環境を守る共通の利害関係者となる。まさに21世紀型の協同組合運動だ。」
運動に参加する田んぼは食用のコメだけでなく酒米や飼料用・米粉用米、バイオエタノール製品などを作る田んぼにも広げていく方針だ。
地域での協同活動を戦略的に情報開示し、ホームページやポップの作成を通じて田んぼ市民に届ける活動も行う。
さらには生きもの調査のデータベースを分析・研究し、生産資材メーカーや農業土木企業なども巻き込み、生物多様性の観点からの商品・技術開発などにも広げる考えだ。
【BASC】
前身は2005年に始まった「田んぼの生きもの調査プロジェクト」。08年5月にNPO法人として名称を変え、再スタートした。全国各地で「田んぼの生きもの調査」を展開し、田んぼのもつ機能や、田んぼに住むさまざまな“生きもの”や“命”の大切さを伝え、その取り組みは韓国にも波及している。