◆市場原理主義の限界
コーディネーターの増田佳昭滋賀県立大教授は「大転換期をどうみるか、JAは大転換期をどう切り拓くのか」を課題提起した。
増田教授は働く人すらモノと見るなど、あらゆるものを商品化し市場での取引に委ねる市場原理主義や、規制緩和の弊害が社会に深刻な影響を与えるなか、その間違いがはっきりし世界経済が大転換期にあると指摘。ものづくりや農業、田舎への再評価が高まっている今、「JAの主体的役割を検証しどう社会を立て直していくか期待が高まっている」と語った。
ただし、JAは大型化、金融機関化が進み、一方で農業生産は縮小、また、大量の正組合員の世代交代、准組合員との逆転などによって、組織の危機にあると指摘、危機打開は「人の組織」としての再生、強化だと強調した。
そのために求められるのが組合員の「ニーズ・参加・教育」に関わる教育文化活動だとして、JAの新たな針路を開くためにも教育文化活動に対する「トップの意識」こそが重要になると指摘した。
◆地域のど真ん中にJA
JA新ふくしまの菅野孝志理事長は「ど真ん中にあるJA」による地域活性化と題して実践報告した。
JAとしてめざしてきたことは地域農業・経済・教育などの分野の“ど真ん中”で役割を発揮すること。
そのためにJAの主体である組合員の声なき声を聞くことをこころがけ、そこから職員が新たな取り組みを提案し、事業展開を図ることに力を入れた。それは栽培技術、団地化、農産加工、地場販売など多彩に広がり「人と人とが育み合って成長すること」につながってきたという。
ただ、合併以来、農産物販売高は下落が続いたため、JAの根幹である地域農業振興に向けて100億円復活の目標と、担い手を訪問し要望を聞く「AST」(農業支援トータルチーム)を設置。JA出資法人の設立や直売所利用者にポイントカードを配布するなど「市民との連携」による農業振興も図ろうとしてきた。
教育文化活動では農業体験を促進するため学校教育支援事業を展開するほか、教育文化活動研究会も発足させたという。
菅野理事長は「こんな故郷にしたい、こんなJAにしたい」という役員の明確な姿勢と、職員の熱意と工夫がJA運動を発展させると述べ、「どこかひとつの強みを発揮し、そこを突破口に広げていく」ことが大事だと強調した。
◆教育広報活動を強化
JA鳥取中央の坂根國之代表理事組合長は「大転換期における農協活動の展開」と題して実践報告した。
京阪神など大消費地に近い立地にあることから、高品質産地確立を目標に、ナシ、スイカなどの特産品で品質向上・統一の取り組みや、消費地店舗での周年販売体制の確立に取り組んでいる。米、ナガイモでは、食品業界と連携し、業務用契約取引を拡大した。
また、高品質のスイカ、ナシはドバイやロシアなどへの輸出を実現した。ブランド確立とイメージアップ戦略のため農産物のネーミングは組合員、地域住民から募集し「参加意識」を高めるとともに、少量多品目生産物の提供による地産地消にも力を入れる。
とくに重視しているのが教育広報活動。
JAの生産、販売の取り組みや産物情報を地域に発信し、生産者のみならず地域住民にも自信と誇りをもってもらうことが狙い。JA広報誌のほか、地元テレビ番組や地元紙を活用している。
また、地域の子どもたちへの食農教育や学校給食の食材提供は、広く地域住民にJAが理解され支援拡大の契機になったという。
坂根組合長は次世代に地域のすばらしさ、故郷を大切にすること、高品質産地を継続させる人材の育成が大事だとし「人を大切にし地域を大切にする農協運動の原点に立ち帰るべきだ」などと強調した。
◆今こそ農村の生活文化の継承を
特別報告はJA広島北部の教育文化活動活性化推進委員会の取り組みを香川洋之助代表理事組合長が報告した。 同JAでは「豊かな緑・魅力あるふるさと・つながる心・信頼されるJA」を合併時の理念としたが、これを実現するために教育文化活動が重要になると役員が再認識し、推進委員会を立ち上げて職員アンケートや女性部と懇談会の開催、教育文化セミナーの開催などに力を入れている。香川組合長はJAの代表者としての自覚と長期的視野に立ったJA運営、徹底した職員教育の重要性を強調した。
実践報告を受けてコメンテーターの石田正昭・三重大学教授は、JA運営について▽トップの意識がぶれないこと、▽目標を常勤役員で共有すること、▽トップ層が組合員と同レベルの言葉で語り情報発信することの重要性を指摘した。
また、村田武・愛媛大教授は「協同の力なくして農業振興はないことを改めて実感した」として土地利用計画づくりが鍵を握るとしたほか、JAの情報提供活動と食農教育活動は農業の後継者だけでなく「地域の後継者」を育てる点で地域から共感を得ていると指摘。「支え合う、共助という農村の生活文化」の継承にJAへの期待が高まっていると指摘した。